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微笑みの詩  作者: ここたそ
第一章
18/57

乱雑

3月といえば引越しシーズンだ。

大学進学を機に一人暮らしを始めるもの、会社から移動を命じられ見知らぬ街へ転勤するものなど…非常に多くの日本人が4月から始まる新生活に備え、行動を開始する。


この時期に引越しするのは失敗だったかな、

松田華まつだはなは思った。

事実、引越し業者を探すのにも手こずり、来週の引越し予定日まで、さして時間もないのに、荷造りが進んでいない。

荷造りが進まないもう一つの理由が、子供だ。


1歳になったばかりの、遊びたいざかりの子

供にとっては、山積みになったダンボール箱

さえ宝の山だ。



「これは思わぬ誤算だったな。」

華は思わずそう独り言を漏らしたものの、その心は浮き足立っていた。



「そろそろマイホーム、購入しようか。」

旦那のけいがそう提案してきたのは、

半年前のことだった。


1LDKのマンションに家族3人で暮らしていたものの、子供の成長に伴いすこし手狭になっていた。

幸い、圭が立ち上げたベンチャービジネスの業績も右肩上がり。

すぐに華はその案に同意し、隣の市で販売していた建売住宅を購入した。



大量に陳列されている、書籍の多さに項垂れながらも、華は手を休めることなく荷造りを進めた。

しかし、書籍スペースには数多くの誘惑物が眠っている。

華はついつい、昔読んだ小説や、卒業アルバムに手を延ばしては、中を確認してしまう。



そういえば、小さい頃も母親に部屋掃除をする様に言われても、結局はかどらなくてよく叱られてたよな…今この場には母親はいないわけだし、どうせなら好きなだけ本を読み更けよう。

と、華は決意し、一番右奥にあった、直木賞作家の処女作を手に取り、ページをめくった時、一枚の写真が膝の上に落ちた。



なんだろう?と華は思い、その写真を拾い上げ、大きな目を更に見開いて写真を眺めた。





そこに写っていたのは、華と篤紀だった。



━懐かしいな。


華がその様な感情を抱いたのは、隣に写っている篤紀に対してではなく、その写真が撮影された場所に対してであった。


久しぶりにマスターが入れてくれるキリマンジャロが飲みたくなり、華は時計に目を向けた。

百貨店で購入した銀縁が雰囲気を醸し出している、その時計の針は2時をさしている。


ここから電車で50分。今から行っても夕食には間に合うな。

華はそう思い、すぐさま出掛ける支度をはじめた。


家を出ようとした時、先ほどの写真がまだポケットに入ってるのを思い出し、取り出すと乱雑に丸めてゴミ箱へと放り投げた。



そして華は、喫茶『砂時計』へと向かった。













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