表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微笑みの詩  作者: ここたそ
第一章
17/57

鼓動

二車線に広がる国道に面しているマンションの4階を、歩道橋から眺めた。

405号室の灯りはまだ灯されてはいなかった。


篤紀は、仕事場から自宅まで駆け足できたその足を、休める間もなく今度は健人のバーラウンジまで走らせた。


店内を見渡してみると、ついさきほどまで詩衣がかけていたイスにその姿はなかった。


「お疲れさん。仕事大丈夫だったか?」

篤紀の姿に気づいた健人が、洗い終えたばか

りのグラスを拭きながら、駆け寄りそう問いかけた。

「詩衣は?」

「ん?ああ…つい10分くらい前に出ていった

よ」


━しまった。行き違いか。


健人の言葉に、全速力で駆けてきたせいか、今まで蓄積してきた疲労が篤紀の身体を一気に襲いかかった。


「わかった。サンキュ」

健人に告げ、引き換えそうとしたとき「ちょっとまった。」と、健人が呼び止めるので、早く帰りたい衝動を抑え、振り返った。



「…そのさ、華のこと話したけど、問題ないよな?」

「あほか!…言いわけないだろ!」


思わず自分の耳を疑いたくなる様な言葉に、なんとも間抜けな返答をしてしまった、…と頭の中はやけに冷静に分析している。


やっぱりそうだよな、と罰が悪そうにしている健人を尻目に篤紀は問いただした。

「…話したって何を?」


その篤紀の若干尖った口調に、開き直ったであろう健人はおちゃらけた表情で喋りはじめた。

その様子が篤紀の苛立ちを一段と加速させた。


「だからさ、俺が華と付き合ってたんだけど、しばらくしてお前が付き合いはじめて、その後、華は浮気してしまい、二人はジ•エンド…って感じでかな。」


それを聞き、篤紀は思わず怒鳴り散らしたい衝動にかられたが、幾分か篤紀の中に残っていた理性の方がそれを上回ったのだろう。

出来るだけ穏やかな口調で話すように心がけたが、実際のところできていたかどうかはわからない。



「…何でそんなこと話したんだよ?」

一転して、今度は真面目な表情でその問いに答えた。


「まぁ、華のことうっかり口滑らせたのは俺だし、そこは謝るけどさ…。その後、お前と華の関係を根掘りは掘り聞いてきたのはむしろむこうだぜ?」

その勢いを落とすこともなく健人は続けて話した。

「実際、もう過去のことだし時効だろ?今、華と付き合ってるって言うんなら問題だろうけど、昔の話だしさ。それに華はもう…」


そのときの篤紀にはもう冷静さや、理性なんて物は微塵も残っていなかった。握りしめた拳の間に冷や汗が湧き出ているのを感じた。


「…黙れ。」

恐らく、その時に篤紀が発した一言は健人が今まで聞いてきたどんな篤紀の言葉より迫力があったのだろう。思わずたじろみ、後ろかがみになっている健人の姿がそこにあった。


華はもう…その後に健人が何を続けて言おうとしたのかは分かっている。

ただそれを聞きたくなかった。

聞くのが怖かった。

何故なら、未だに認められないのだから。

詩衣のことはもう、頭の片隅にもなかった。華のことで頭の中は渋滞をおこしていた。



━━━華はもう、結婚して子供がいるんだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ