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微笑みの詩  作者: ここたそ
第一章
14/57

過去

店内には篤紀と詩衣の他には、もう一組カップルがいるだけだった。

「日曜日とはいえ休日なのに、随分閑散としてるんだな」と篤紀が尋ねたところ、

「まあね、最近この辺り、似たようなバーが増えてきてんだよ。お陰様でこっちは平和よ。」と、健人はさらりと答えた。



そのカップルは、まだ7時前だというのに肩に手を回しあいまるでこの世に二人しか存在していないかのような雰囲気を作り上げている。

さすがの健人もその客相手にはいささかやりづらい様で、苦笑いをしている。

接客する必要はないと感じたのか、健人は再び詩衣と篤紀が座っているカウンターの方に引き返し、詩衣に対して通り一遍の挨拶をし始めた。


詩衣と健人は、篤紀の予想に反して意外と直ぐに打ち解けたようで、昨夜放送されたドラマなんかの話をし始めた。

人間関係における相性とはよくわからないものだ。まったく正反対のタイプの二人が友人だったりするのは、普通によくある話である。


篤紀はそんな詩衣と健人の様子を横目で眺めながら、ふとある事を思った。


以前にもこんな光景があった様な気がした。

しかし、隣にいたのは詩衣ではない。

隣にいたのは…、いや、やめておこう。

一瞬自分の左脳をよぎったあの光景を篤紀は必死に思い出すまいとした。


はなのことは、もう思い出したくないんだ。

思い出したくなんかないのに…

忘れたくもないのはどうしてなんだろう。



そんな自分の内心をまるで見透かしていたかのように、詩衣が声をかけてきた。

「……のり!篤紀!」

急に現実に引き戻され、今ひとつ頭の回転がついていってない篤紀に対し、詩衣は優しく微笑んでそして続けた。

「さっきからずっと携帯鳴ってるよ?」

そのつめたい電子音を聞き、やっとのことで篤紀は我にかえった。

その音はまるで、自分の内心に警鐘を鳴らすような音だった。

「ん?ああ…うた、ありがとう」

そう一言詩衣に告げると、篤紀は一度店内を出て、その電話を受けとった。


電話の相手は会社の上司だった。

何でも、今日配送した医療器具に不具合が生じたため、直ぐに会社に来て欲しいとのことだった。


全く、普段は休日出勤なんて滅多にないのに、こういう日に限って呼びつけてくるんだよな。溜まったもんじゃない。

半ばふて腐れながら篤紀はそう思ったものの、直ぐに詩衣のもとに戻り事態を説明した。


「うた、俺の家まで1人で帰れるな?」

詩衣と一緒に店を出ようか迷ったものの、着いてからまだ一時間も経過していなかったため、流石に自分の都合で急かすのも申し訳なく思い、その様に尋ねた。

「うん、大丈夫だよ。これ一杯飲んだら帰るね。」

のんびり屋の詩衣から予想通りの返事をもらうと、篤紀は店を後にした。


健人が詩衣に対して、何か余計なことを言わないか少々心配ではあったが、まあ大丈夫だろう。

詩衣に手を出したりしないかも、一瞬頭をよぎったが、直ぐにその心配は皆無だと気づいた。


健人は友達の彼女には手を出さないことを美徳としていて、本人もそう豪語している。

最も、ナンパした相手がたまたま友達の彼女だったことは数回あったそうだが。

篤紀も健人のそこだけは信用していた。こんなことを言うと、健人には怒られそうだか。


そう、健人は友達の彼女を奪う様なやつではない。

むしろ…


むしろ、そんなことをしたのは他ならぬ自分なのだから…。




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