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微笑みの詩  作者: ここたそ
第一章
13/57

関係

いつのまにか身体が凍てつく季節は通り過ぎ、柔らかい風が優しく頬を撫でる様な季節へと移り変わっていた。

冬に備えた重装備で歩いていると、これが意外と—暑い—。

隣で詩衣が「やっぱりマフラー要らなかったかも」と呟いている。

それでも、しっかりと絡ませあった手を解こうとはどちらもしなかった。



健人が働いている、そのバーラウンジは、東武東上線成増駅からは目と鼻の先のところに

ある。

ちなみに、篤紀の住んでいるマンションからも徒歩5分圏内という、常連になってもおかしくない様な場所にあるのだが、実際のところ行くのは半年ぶりだ。



健人と篤紀は、大学時代同じ場所に住んでいた。

と言っても、誤解されたくはない。

同居していたわけでもなければ、居候していたわけでもない。

地方学生の為に斡旋されている、大学の学生寮で暮らしていたのだ。


こうして振り返ると、健人とはつくづく仲良くならざるを得なかった。無論、おそらく健人も同じことを思っているだろう。



今向かっているそのバーラウンジは、健人が大学時代からアルバイトとして働いている店である。

卒業後、健人はお隣の和光市駅付近の物件に引っ越したが、篤紀は成増という場所の便の良さが気に入っていたため、学生寮の近くにマンションを借りたのだ。

そのため、篤紀のマンションと健人のバイト先であるバーラウンジはとても近い場所にある。



その距離を歩くのにそんなに時間はかからなかった。

バーラウンジが入っているテナントビルの1階はちょっとこじゃれたイタリア料理店になっていて、よく地方紙の取材が入る地元ではわりと有名な店らしい。

そのビルの地下一階が健人が働いているバーラウンジだ。

1階のイタリア料理店とは対象的に、地下へと続く階段は無機質なコンクリート打ちっぱなしの作りになっていて、全体的に薄暗い。

ところどころに灯されている間接照明が雰囲気をつくりあげている。

中にはいると、外壁はそのまま無機質なつくりだが、調度品やインテリアが所狭しと置いてあり、特に革張りの真紅のソファーには目を奪われる。



「わりと空いてるからお好きな席にどうぞ」と健人に促され、二人はカウンターの席に座った。


カウンター越しに見える棚にもリキュールから日本酒まで多くの種類の酒類がセンスよく並んでいる。

普段はビールか発砲酒しか飲まない篤紀にとって、飾られている酒類の銘柄は正直よくわからないが、あまりの数の多さについ目を奪われてしまう。


篤紀がビール、詩衣がカンパリオレンジを注文すると、健人は「サービスするよ」と言い生ハムとモッツァレラチーズで出来た前菜をカウンター越しに2人に差し出してくれた。




正直、詩衣を健人に会わせるのはあまり乗り気ではなかった。

とはいえ、健人の誘いを適当な理由をつけて断ることはそれほど難しいことではない。

しかし、篤紀にその選択肢はなかった。

健人のことだから、今回断ったとしても、詩衣に会わせるまでしつこく誘ってくるのは目に見えているし、


それより何より…


篤紀は健人に対して後ろめたさというか負い目があった。








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