日常
翌日の朝出社すると、休憩室には千里のハイテンションな声が響き渡っていた。
まるで昨日の余韻をぶち壊し現実に戻してくれる様な声だな、と詩衣は思った。
良くも悪くも詩衣は千里のそんなところが好きなのだ。
中にはいると、千里が大きく手を振りながら話しかけてきた。
「うーたーえーー!誕生日おめでとう!」
誕生日を忘れずに覚えているところに、やはり千里の人の良さを感じる。
「ありがとう!シフト変わってもらってゴメンね」
「ほんとだよ。こっちはクリスマスだって言うのに7連勤中だよ。で、どうだったの?」
詩衣は答えるかわりに、千里の目を真っ直ぐ見つめた。その目は悪戯にひかり期待に満ち溢れている。
詩衣は手で小さなハートマークをつくった。
「やったぁー!」
千里は表現しようがないくらいのテンションで、ガッツポーズをした。
そんな千里の滑稽な姿に詩衣も思わず大声で笑ってしまった。
それから詩衣と篤紀は、いつもどちらかのアパートで仕事が終わった後夕食を食べるのが日常となっていた。
詩衣はシフト制のため土日休みが少なく、一方篤紀は暦通りに休日があるため丸一日一緒にいれる日は意外に少ない。
もっと一緒にいる時間が増えればいいのになあと詩衣が言ったところ、篤紀が毎日夕食一緒に食べようかと提案してくれた。
この日も詩衣の部屋で少し冷めたカルボナーラを食べていた。
「そういえばさ、うたの誕生日っていつ?」
聞きながら篤紀はビールを飲み干す。まだ底に残っていると思ったのか、缶の中をみてあれ?っといった表情を浮かべた。
いつのまにか、詩衣のことを「うた」と呼ぶようになっていた。
「12月のねー、25日だよ」
詩衣はカルボナーラをフォークに巻きつける。この作業が地味に好きだった。
「それって…」
「そうあの日」
にっこりと詩衣は微笑んだ。頬っぺたにはえくぼが浮かんでいる。
肩をがっくしと落としながら篤紀は喋りだした。
「ごめんな。何もプレゼントあげられなかったな」
詩衣が首を横にぶんぶんと2回程振ると、篤紀は何かを思いついたようだった。
「そうだ!来年のうたの誕生日には旅行に行こう。俺、それまでに金貯めるからさ。うたの行きたいところに行こう」
目を見開いて、今度は縦に首を振った。
まだまだ先の約束だけど、今からそれが楽しみで仕方なかった。
そして二人は一緒に眠りに落ちて行った。