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DESTINY~another world~

七夕、回想、願い事

作者: 把 多摩子

 いつから、ソレは始まったんだろう。

 そんなこと、考えたところで、結局最初から答えは出ているのです。

 あの時、初めてあなたを見た瞬間からソレは始まったのです。


 外は、雨でした。

 城壁を流れる水温を壁にもたれて聞いていました、何処にいれば良いのか解らなかったから。

 敗北した王宮内は、憤慨を覚える人や嘆き悲しむ人、今後はどうなるのか、と不安に怯える人など様々な心境を抱えて騒然としていました。

 みんな、大事な人達でした。

 当然その場に居たアサギは、慣れてしまいつつあった落城に小さく溜息、それでも元気に振舞おうとしていたのを昨日のように覚えています。

 だって、なんどもこの光景を見たもの。

 慣れたとしても、良い気分では勿論ありませんでした。

 哀しいです、辛いです、苦しいです。けれどももう、どうにもなりません。

 そんな会議室で、誰かの良く通る声が聞こえました。 会議室は広いけれど、閑散としていました。あんまり、人、いなかったし……。

 それは聞きなれない声で、国民さんのものではありませんでした。余計に響きました、平素みんなで一緒に居た人ではないと、直ぐに解ったから。

 声には感情が篭っていなくて、実に事務的でした。まぁ、敗北したお城で感情的になってもお互いに困るでしょうから、彼が正解なのです。

「もうすぐ城を落とされた方が来ます」

 誰かからの依頼で、この国は落とされたのでした。 本当の目的は知らないけれど、使者らしき人はそれだけ継げて消えていきます。

 どんな、人だろう? 優しい人がいいなぁ……。

 落城させた人に優しい人がいないなんて、そんなことはありません。アサギは素敵な人達を前に見てきました、互いに事情があって城を攻め滅ぼし、守護しているのです。

 善悪なんて、ありません。

 そんなことを考えながら、喧騒の会議室を見渡します。興奮気味のみんなは、使者の人に詰め寄っていました。気持ちは解ります、大事なお城だもの。みんなで護ったお城だもの。

 ……どんどん騒ぎは大きくなるばかりで、困ってしまう。

 争いごとは、嫌なのです。どうしよう、何かしなきゃ。

 アサギは、ようやく皆に向かって歩き出したのです。

「あのー、もうすぐこの国を落とした本当の方が到着されるみたいですし。大人しく待ちましょうですよ」

 やりきれなくて、そう叫んだ時。

「オレですが、何か」

 背後から、初めて聞く声。

 何処か懐かしいような、待っていたような、耳に、心に響いた声。

 好きな声だ、と思いました。

 低くもなく、高くもなく、ちょっと幼ささえ感じてしまうその声。

 冷徹とか、そんな声じゃなくて……。

 感情は、篭っていなかったですけれど。でも、アサギが受けた印象は、悪いものではありませんでした。

 何故か高鳴る胸を軽く押さえて、深呼吸して……振り返った先に立っていたのは。

 濃紺の夜空のような色した髪の。深い深い観ていると吸い込まれそうな瞳の。

 白銀の鎧を身に纏った、端正な顔立ちの人でした。

 その存在感に見惚れたアサギは、一呼吸置いて震える声で、話しかけたのです。

 湧き上がる感情を押し殺しながら、なるべく、笑顔で。

 彼の、目を見て。


 あんまり見ないで欲しい どきどきするから

 嘘。 ホントはもっと、見て欲しい


「あ、初めましてですよー。アサギというのです」

 それが出会って初めて交わした会話で、アサギが心を奪われた瞬間でした。

 彼は、少しだけ会釈してくれたような気がしました。すぐに、部屋の中央に歩いていってしまったけれど。でも、彼の纏っていた深紅のマントがとても綺麗で凛々しくて、後姿でもなんだか頼もしく……あれ?


「……で、ちょこちょこお部屋に遊びに行っていたのですよねー」

 目の前で眠りについている夫の額に、手を乗せて。

 思わず微笑んでしまう。まさか、こうして夫婦になれるとは。

 無表情だったが、いつも部屋に入れてくれた。差し入れしたら、食べてくれた。

 落城させた城の、下っ端幹部に眉を潜めて彼はそれでも会話してくれた。

 ぽつり、ぽつりと、語ってくれた。

「よく、頑張りましたですよー、アサギ」

 自分を誉めてみた。もそもそとシーツにもぐりこんで、そっと夫に抱きついた。

 寝ぼけながらもアサギを抱きしめ返してくれた、夫の頬に口付ける。

 窓から外を見れば。

 今日は七夕。

 家にある小さな笹に飾った、一枚の短冊が風で揺れた。

 願い事は、毎年同じ。

「おやすみなさい、ギルザ」

 大丈夫、来年も一緒なのですよ。


 ずっと、一緒の願い事。それは永遠に叶い続けるだろう。ほら、もう何年目?

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