追放
ジョゼットの本性を目の当たりにしたガエルは、フェルマンのもとへと急いで戻った。
「申し訳ありませんでした。あのような女にうつつを抜かし、貴族としての責務をおろそかにしていました。父上のおかげでやっと目が覚めました。心を入れ換えますのでこれから父上のもとでもっと学ばせてください。お願いします!」
ガエルはフェルマンの執務室で頭を床にこすりつけて謝罪した。
「ジョゼットとは離婚します、クローズ家の恥にならないようすぐに追い出しますので……」
「くどい。決定と言ったはずだ」
「父上、どうか! どうかお許しください!」
後のないガエルが必死で許しを乞うていると、窓の外から何やら大声が聞こえてきた。
その声にガエルがひゅっと息をのんだ。
聞こえてきたのは甲高いジョゼットの声。
執事が窓を開けると、立ち入りを禁じられている庭にジョゼットが入り込み、金切り声をあげていた。
「あんた誰なの? 侯爵の愛人? 次期侯爵夫人の私を追い出すとかふざけたこと言いだすなんてあんたが何か吹き込んだんじゃないの⁈」
庭でメイドに日傘をさしかけられながらお茶を飲んでいた女性の周りを護衛が数名守るように取り囲んでいる。
ベールをかぶった女性は恐ろしさのためか立ち上がり、侍女が女性を抱きかかえるように守る。
一人の護衛に取り押さえられながらも叫んでいるジョゼットにガエルは何度目かの絶望をした。
それを見たフェルマンは険しい表情を浮かべ、部屋を出ていった。
追いかけるようにしてガエルもジョゼットのもとへと駆け付けた。
「きゃあっ」
ガエルが庭に到着したのはフェルマンに頬を打たれたジョゼットが地面に倒れこんだところだった。
「ち、父上!」
厳しくとも暴力を振るうような父ではない。激昂して手を上げる父の姿を初めて見たガエルは心底驚き、それほどの逆鱗に触れたのだと恐ろしくなった。
フェルマンはさっとハンカチを差し出す執事からそれを受け取って手を拭く。
「何するの!」
「平民の分際で侯爵夫人に危害を加えようとするからだ」
「侯爵……夫人……?」
ガエルが唖然として父と庇われている女性を見比べる。
「もう息子でもないお前に紹介する必要はないが、彼女は私の妻だ」
「どういうことですか! そんないつ婚姻を……」
ガエルの言葉など聞こえなかったように、フェルマンは妻をかばうように優しく肩を抱きよせる。
そしてフェルマンは護衛に
「直ちにこの二人を追い出せ」
と命じた。
「父上! 待ってください! この女はすぐにでも追い出しますから許してください!」
どれだけ謝ろうと、ジョゼットが暴れようと二人は門の外へと放り出された。
そして使用人がまとめた荷物と新居の住所を渡されたのだった。