ジョゼットの苛立ちとガエルの不安
そんなある日、離れの窓から外を眺めていると、本邸の庭にテーブルや椅子が設置され、使用人たちがお茶の用意をしているのが遠目に見えた。
「お茶会の用意じゃないかしら!」
それを見たジョゼットの声が弾んでいる。
「そうみたいだな」
「やっとお会いしてくださるのね」
嬉しそうに窓の外に釘付けになっている。
ジョゼットは勝手に自分も誘われると思っているが、家族と言えども、お茶会に招く予定なら前もって連絡がある。
「あれは違うよ」
「どうしてわかるの?」
「そういう時は前もって連絡がある」
「……めんどくさいのね、貴族って」
ジョゼットが発した言葉には少し馬鹿にしたような響きが混じる。
最近のジョゼットにはわがままで傲慢な部分が見え隠れするようになった。
言いたいことを言い、欲しいものをねだるようになり、かといって何の勉強も努力もしない。
その物言いに少し苛立ったが、すぐに窓の外に気を取られた。
「あれ誰かしら」
お茶会の席に現れたのは父のフェルマンともう一人見知らぬ女性だ。
父と向かい合わせで座っている女性はチュール付きの帽子をかぶり、完全に顔を隠していたが父と大変親しそうに見えた。
「あの若い女性は、父上の客か? 仕事関係か?」
「さあ、私にはわかりかねます」
使用人に聞いても全く知らないのか、口止めされているのか知らないが、素気無く何も知らないとしか言わなかった。
しかしそれを見たジョゼットが急に怒りだした。
「ねえ! どうして知らない人がお義父様とお茶をしているの? 私があれだけ会いたいと言っても会ってくれない癖に。お義父様に会いたいと伝えてくれてるの?」
「父上の交友に口を出す権利はないよ。それに父上に会うには今のままじゃ無理だ」
「私はあなたの妻なのにどうしてお義父様に会わせてもらえないの!」
「だから父に会うために以前からマナーを身に着けてくれと言っているじゃないか」
いくら講師をお願いしてきてもらっても、ジョゼットが泣いたり逃げたりで、最近では講師の方が拒否をしてしまう。
せめて挨拶の仕方、食事のマナー、言葉遣いを身に着けないと父に合わせることも社交界に出すこともできないと言い聞かせてもジョゼットは努力をしてくれない。
頑張ると言っていたジョゼットはどこに行ってしまったのか。
「ちょっとくらいマナーが悪くても、会えば何とでもなるっているじゃない。あなたもそうだったでしょ? 平民の私でも会えば楽しいってわかってくれたじゃないの」
ジョゼットはにこりと笑ってガエルの腕に絡みつく。
「ジョゼット、貴族がみんな僕のようだと思ったらいつか大変な目に遭う。面目を潰されたというだけで処罰されることもあるんだ。父上と会うために頑張ってくれないか」
「人と人とは結局心なの。任せておいて、心配ないから。お義父様も奥様を早くに亡くして孤独だから頑固になられているのよ。私が冷え固まった心を溶かしてあげるから大丈夫よ!」
ジョゼットは笑顔でそう言い、お茶会に参加しようと飛び出していきそうになった。
ガエルは慌てて引き留め、必ず別に機会を設けるからとなだめてその日だけは何とかあきらめさせたが、ジョゼットの理解不能の言動に肝が冷える。
最近のジョゼットは以前よりまして言葉遣いも態度もが雑で品がなく、遠慮が無くなってきている。
自分の決断は正しかったのか? 小さかった不安が日々育っていくようだった。