セラフィーヌサイド 9
池で溺れて大変な目に遭ったものの、結果的に実家に迷惑をかけることなく、ガエルと離婚することが叶った。
おまけに特別区に部屋を用意してくださった。
わざわざそんなところにお部屋を用意してくださるなんて! と、これから始まる二人の幸せ生活を思い描いて浮足立っていた。
しかし、セラフィーヌが目を覚ましてからは義父はほとんど顔を出さなくなった。
(お義父様、どうされたのかしら。せっかく花の独身に戻ったというのに、遠慮はいりません事よ~)
義父からすれば、ガエルと離婚したセラフィーヌはもう義理の娘でも何でもない。
当主として責任はとるが、それ以上の気持ちは全くないのかもしれないと思うと悲しい。
私の言う責任はそういう事じゃないのよ~。
このままでは私の幸せ結婚計画が……。
と悶々と考えているうちに、はしたなくもふ~っと大きくため息をついてしまった。
「セラフィーヌ様、お加減いかがですか? 何か心配事でもおありでしょうか?」
メイドが心配そうに聞いてくれるので慌てて否定した。
「え? 大丈夫よ。ごめんなさい。少し……不安になってしまっただけだから」
「旦那様がいくら大丈夫と言ってもご心配ですよね。わかりました! お任せください!」
メイドはそういって部屋を出ていった。
「え? 何のことかしら」
セラフィーヌがガエルの襲来を心配しているのだと早合点したメイドのおかげで、フェルマン様はまた毎日見舞いに来てくれるようになった。
年齢詐称化粧お化けメイドと違って誠にグッジョブなメイドさんである。
フェルマン様は本や刺繍糸を差し入れてくれたり、一緒にお茶を飲んでくださるようになった。
仕事の事、政治の事から庭の花、市井の流行まであらゆる会話で話が弾み、年齢差があるなど感じないくらい楽しい時間を過ごせるの。
あ、そうそう。先日もう義父ではないのだからフェルマンと呼んでよいといってくださったの!
これは夫婦になる予行演習かしら!
今日はサロンでお茶をすることになり、移動しようと立ち上がるとすっとフェルマン様が手を差し伸べてくれる。
当たり前のように差し出される手がうれしくて、さっとその手に手を重ねる。
実は、寝込んでから初めて廊下に出ようとしたとき想像以上に力が出ず、ふらついてしまった。
すぐさまフェルマン様が抱き留めてくださり、腕を貸してくださったのだ。
それからはもちろん、転びそうで不安です~という表情で手を伸ばし、フェルマン様にエスコートをしてもらえるようになった。
初めにふらついた私を褒めてやりたい。




