セラフィーヌサイド 2
さて第一声はどうしようかしらとお相手を見た時、息が止まった。
見合い相手のガエルの横にセラフィーヌ史上最高の好みのど真ん中の紳士が座っていたのだ。
その紳士とはガエルの父フェルマン・クローズ。
引き締まった口元と意志の強さを感じさせるきりっとした眉が一見強面に見せている。しかしいらぬ愛想笑いなどせずどっしりと構えた様子は、自分を律する強さと高い自己肯定感を感じさせる。前髪は自然に上がり、サイド後ろに流す髪型で、胸元のアスコットタイには真っ赤なルビーのピンが光っており大人の余裕とそこはかとない色気を醸し出していた。
敵対する者には容赦がない厳しさを持つが、内にいれたものは全力で守ってくれる(ようにセラフィ―には見えてる=妄想)理想の集大成が目の前にいた。
「セラフィーヌと申します……」
うっとりとフェルマンに見惚れる。
(ああ、なんて素敵な方なのかしら)
嫌われて見せる! という、初めの意気込みはどこへやら、おしとやかに自己紹介をした。
隣の息子など皆目目に入らない。
「クローズ侯爵様、末永くよろしく……」
頬を染めてフェルマンに縁談を受け入れますと返事を仕掛けた時、横やりを入れられた。
「これ、落ち着きなさい」
慌ててそういったのはセラフィーヌの父だった。
セラフィーヌの好みを熟知している父は、婚約者候補のことはそっちのけでその父親に見惚れて顔を赤らめているセラフィーヌに異変を察知した。
ここで話がこじれでもしたら支援がなくなってしまう。下手をすれば慰謝料だとか難癖をつけられてしまえばもう破滅しかないと大汗をかいている。
「はは、何とも初々しいではありませんか」
恥ずかしくてガエルと目を合わせられないのだろうと鷹揚に頷くクローズ侯爵にセラフィーヌははっと我に返る。
(そうだった……私の相手は隣のクズガエルだった。なんてこと)
その事実を思い出し、崩れ落ちる。
麗しの侯爵様の隣に座るガエルに視線を移すとガエルが嬉しそうに顔をほころばせた。
「セラフィーヌ嬢、今日は来てくれてありがとう。私はあなたを見かけたことがあるのです。それからずっと好意を抱いていたんです。どうか私と婚約していただけませんか」
(流れるように嘘をつくのね。こちらは全く興味はないのだけれど)
セラフィーヌは内心ため息をつく。
「ありがとうございます。でもクローズ令息様には大切な人がいるとかいないとかお聞きしたことが……」
だからあなたとは結婚したくはないのだという気持ちを込めて牽制してみる。
「ご存じでしたか、面目ありません。若気の至りで付き合った方がいましたが、もうきっぱり縁を切っております。今はあなたしか目に入っておりません」
ガエルは嘘をついているとは思えないさわやかな顔でそう言った。
(友人から情報収集していなければこのさわやかさに騙されていたわ)
それが余計にガエルの性格の悪さを現しているようでイラっとする。
「ありがとうございます。ですが……クローズ侯爵様はよろしいのでしょうか」
「どういうことかな」
「私のような何のとりえもなく、貧乏子爵家の娘など侯爵家にはふさわしくないように思えるのです」
「子爵家が困窮しているのは知っている。だがそれは天災に遭ったうえ、事業の取引先が支払いをせず逃亡したからでしょう。子爵は立て直そうと頑張っているし、そちらの事業の将来性に投資すると思えば当家にもメリットはある。それに君自身も仕事を手伝い、優秀だと聞いているよ。だから来てくれるのを楽しみにしている」
「まあ!」
『(愛する君が)来てくれるのを楽しみにしている…(愛する君)…楽しみにしている』
フェルマンの言葉を妄想で都合よく変換し、そのリフレインに浸るセラフィーヌ。
「お前にしては素晴らしい女性を見つけたな」
さらにフェルマンはそう言葉を継いだ。
素晴らしい女性ですって!
もうこれは両想いじゃなくて⁈




