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プロローグ
広い庭に色とりどりの花が植えられ、黄菖蒲やガマが生える広い池のあるクローズ侯爵家のタウンハウス。
亡くなった侯爵夫人がこの美しい庭をひときわ気に入り、散歩したり池のほとりでお茶をしたりするのを好んでいたという。
そんな自慢の庭は少し前まで花壇の花はところどころ枯れ、お茶ができるガゼボは埃がかぶったままだった。
青空は透き通り、池の水面がキラキラと輝いているというのにクローズ侯爵邸の庭はどこかすさんだ印象を与えていた。
しかし、最近になってようやくその庭はかつての美しい姿を取り戻していた。
そんな庭の池の前にスラリとした細身の美しい女性が、悲しみを湛えた様子で水面を眺めていた。
少しづつ季節が進み、風がそろそろ冷たくなりゆく庭で、池を眺めているのはクローズ侯爵家の嫡男ガエル・クローズの妻、セラフィーヌだった。
セラフィーヌは何かを決意したように顔を引き締めると、池に向かい一歩ずつ足を進めた。