『ぼ、僕は……男で――す!!!!』冒険の始まり
「なんだよ!テメェ男だったの!だったら俺達『鬼殺兵団』にテメェの居場所はねぇ!クビだ!クビ!」
鋼鉄の鎧を纏った大男に冒険者ギルド中に聞こえるほど大声で怒鳴られ、僕はへたり込んだ。
……クスクス……クスクス……まただよ、見た目があれではね……クスクス……
周囲の蔑みが僕を覆う。
僕の名前はミズキ、駆け出しの冒険者だ。
両親のたっぷりな愛情を貰って育てられた僕は、立派に容姿端麗な美少年に育ったらしい……。
男性に告白された数は両手では収まらず、そんな自分を変えようと半ば強引に家を出て冒険者になったのはいいのだけれど、もうすでに8つのパーティーをクビになっていた……。
ザワッ!
周囲が急にざわついた。
「パーティーを組みたいのだが」
白銀の鎧を纏った一人の美少女が受付の女性に話しかけている。
「え!勇者シルフィード様が……パーティーメンバーを!?」
ザワザワッ!!
周囲がさらにざわつく。
勇者シルフィードといえば、その絶対的美貌もそうだが、パーティーを組まない孤高の美少女剣士として有名であった。
魔物のダンジョンに入るには4人のパーティーで入るのが一般的だ。
王国から魔王討伐に一番近い冒険者に与えられる称号『勇者』、それをソロで得たシルフィードの名は知らない者はいないだろう。
「お、おい!俺様は鬼殺兵団団長のモモタだ!ついに仲間を集める気になったのか勇者シルフィードよ」
先ほど僕をクビにしたモモタがシルフィード様に近づく。
「…………」
すごい!シルフィード様、モモタをガン無視だ!
あんなに見事なガン無視を僕は見たことがない!
白銀の鎧にかかる金色の髪が微動だにしない!
「あ……」
そんなことを考えていたら、シルフィード様と目が合って、シルフィード様が僕の方に向かってきた!
「あなた、私の仲間にならないか?」
シルフィード様は僕の両手を包み込むように握り、透き通って真っ直ぐな眼差しを向ける。
「え!?ぼ、僕?え――!!?」
僕は大声を上げてしまう。
怒り心頭のモモタがズカズカとこちらへ向かってくる。
「テメェ!!俺様を無理した挙げ句にそんな無能を仲間にだと!?生け贄でも探しにきたのか!?」
シルフィード様はモモタに鋭い眼光を向けた。
「まず……自分のことを『俺様』と呼ぶヤツは論外だ。品性をどこかで落としたのか?それに私は女神の恩恵スキル『直感』を持っている。この者は決して無能ではない!もし、次にこの者を侮辱した時は私を侮辱したと思え!!」
一気にモモタを捲し立てる。
「な、な、な……覚えておけ!!」
モモタの顔は一気に赤くなり、一目散に逃げ出した。
「全く、『覚えておけ』なんて台詞は冒険者にはご法度だ。なぜなら冒険者は常に死と隣り合わせ。次なんてものはないのだから……」
シルフィード様はどこか寂しそうな表情を見せる。
「あ、あの……」
両手を握られたままの僕は、さすがに照れ臭くなる。
「おおっと、すまん。邪魔が入ったな。私の名前はシルフィード・セレスティーナ、訳合って仲間を探している。一緒に来てくれないか」
「は、はい」
つい、返事をしてしまった。
あんなに真っ直ぐに見つめられては断れない。
断れる人がいたら会ってみたいくらいだ。
「やった!」
満面の笑みが溢れる。
僕はシルフィード様の笑顔に見惚れてしまった。
「あなた、名前は?」
「はい、ミズキです」
「綺麗な名前だ」
僕は夢見心地でシルフィード様の問いに答えた。
「では、さっそく行こう!『死のダンジョン』へ!」
シルフィード様の発した言葉に対する返答を僕は持ち合わせていなかった。
「へ?」
【A級ダンジョン『死のダンジョン』】
ロレーユ地域に突如現れたダンジョンは数多の冒険者の命を奪い、いつの日か『死のダンジョン』と呼ばれるようになった。
「し、シルフィード様!僕はまだ駆け出しの冒険者でして!あの、その!!」
ダンジョンを前に尻込みするのは情けないと思いつつも、まさか冒険者ギルドから転移魔法でこんなA級ダンジョンに連れてこられるとは思わず、僕は人生で一番焦っていた。
「大丈夫大丈夫、君には私の『服』を持っていてもらいたいだけなんだ」
シルフィード様はそういうと、白銀の鎧を脱ぎ始めた。
「え!?え!?え!?」
突然の出来事に僕は言葉を失う。
見てはいけないと頭ではわかっていたが、その美しさに見惚れ、僕は目を反らすことができなかった。
「私のスキル『神速疾風』はどうしても鎧を着ていると効果が薄くてね。だから、戦うときはいつも裸なんだ。今回は深くまで潜る予定だから、服を一緒に持ってきてくれる『女』の冒険者が欲しかったのさ。あ、私のスキル『直感』が働いたのは本当だぞ。君は無能ではない!私が保証しよう!」
シルフィード様は軽快にお喋りしながら、鎧、小手、上着、スカートを脱ぎ、ブラジャーに手を掛ける。
ちょうどブラジャーが外れた瞬間に僕はやっとの思いで声を出すことに成功した。
「し、シルフィード様!!僕は……男で――す!!!!」
ぷるんっ
「……」
「……」
「……」
「……へゃ!?」
思考が停止したシルフィード様は長い沈黙のあと、ゆさゆさ揺れていたおっぱいを両手で隠しながら頬を赤らめた。
<つづく>