<異世界短編> 魔法使い(風系)が雇われて
ここは魔法が存在する西洋ファンタジー的な世界。これはそこで暮らす、とある職業人の物語である。
「よし、あれだ! やれ~~~! ヴァン!」
「は、はい! プラッテ様!」
ヴァンと呼ばれた男性が指先を振ると、どこからか一陣の風が舞い、歩いていた女性のスカートがふわりとめくれる。
「き、きゃ~~~~~!」
スカートがめくれた女性は突然の出来事にとまどい、そして慌てて手で押さえた。
「はっは~~、白に動物のアップリケか~、まだまだお子様だな~!」
「も、もう! プラッテ様ったら!」
はいているパンツの柄を言い当てられた女性は、ぷりぷりと怒り出したが、その様子に構うことなく、二人組の若い男性はあっという間に遠ざかっていった。
この二人組が通る先々で女性、とりわけ年頃の女性が悲鳴をあげている。
「きゃ~~!」
「こ、このスケベ~!!」
「・・・ぶっ殺す!」
中には怒って追いかけてくる女性もいたが、二人組の逃げ足は速く、それこそ風のようであった。
「はあ・・・ はあ・・・ す、少し休みましょう、プラッテ様」
「うん? もう、へばったのか? 魔法使いのくせに情けないな、お前は」
小高い丘の頂上で、さきほどの二人組が休んでいる。
一人は一目で貴族とわかる立派な身なりをしており、小太りで傲慢な物言いをしている。そして、もう一人は魔法使いのローブを着た青年だった。
「ま・・・ 魔法使いは関係ないですよ。延々と走り続けながら魔法を使うって、ものすごい疲れるんですよ? プラッテ様?」
私の名はヴァンと言います。
この世界では希少な魔法を使える者で、風系の魔法を得意としています。
「俺は平気だ。女性のおパンツが拝めれば、疲れなどどこかへ吹っ飛ぶわ。このまま世界一周でもいけるぞ」
このやや変態チックな台詞を放つのはプラッテ様。私のご主人で、一応ここ一帯を治めるエドガー伯爵家の跡取り息子です。
「まあ、しょうがない。少しだけ休んでやるか」
プラッテ様は息切れしている私の隣に、ドカッと座ります。
(こういう、優しいところはあるんだよなあ・・・)
自分もふうっと座り込むと、先ほどの成果に満足したのかプラッテ様は得意気に語りだしました。
「いや~、しかし宿屋のレンのパンツはよかったな。あいつ、十五にもなって動物のアップリケなんて、まるで子供じゃないか。なあ、ヴァン?」
「はあ・・・」
「む? なんだ、その反応は? お前の才能を見出した俺様に文句があるってのか?」
私はこのエドガー伯爵家の治める土地で、あまり裕福ではない家に生まれ育ちました。
しかし、私に魔法の才能があるとわかると、両親はあちこちから借金をして私を魔法学校に入学させてくれたのです。そんな両親に応えようと私は必死に努力をして魔法学校を卒業し、卒業後は冒険者となってそれなりの活躍もしました。
そして、故郷に錦を飾ろうと帰郷したら・・・ このプラッテ様に捕まってしまったのです。
「そのつむじ風から暴風まで多彩に生み出す才能。それを有効活用させてやっているのだぞ?」
このプラッテ様はとにかく強引な性格で、私が最初お断りしたら、数日後に両親の借金を肩代わりした借用書を持ってきました。それで仕方なく雇われることにしたのです。
才能の有効活用とか言っていますが、実際にやっていることはつむじ風を発生させて女性のスカートをめくるというなんとも情けない使い方・・・。
私の風魔法はかつてドラゴンさえも倒した敬愛する師匠から直々に教わったものなのですが、それがこんな使い方をすることになってしまって、師匠になんとお詫びをすればよいのか。
(うう・・・、師匠。すみません)
「女性のパンツとはまさに神秘の世界なのだ! あれを見ただけでその人の教養、性格、気品、そして奥底に抱くたぎる情熱度合など、全てがわかるのだ!」
自称・『パンツマイスター』を名乗っているプラッテ様は、スカートがめくれパンツが見えた一瞬の画像を目に焼き付け、その女性の戦闘力(?)を数値化するという特技を持っています。
先ほども、レースのパンツを見た際に、
「教養二十点、気品二十点、性格三十点、情熱五十点、総計 ヒトフタマル(百二十点)!」
と叫んでいました。
はっきり言って、ただの変態です。
そんな特技は領地経営にはなんの役にも立ちません。
むしろ、将来の奥様に怒られるのでは? と私は考えてしまいます。
「さあ、休憩はもういいだろう。まだ見ぬおパンツを探しに行くのだ!」
私の息切れが落ち着いたのを見ると、プラッテ様はまた私をパンツめくりに駆り出すのでした。
そして再開直後、一人目のターゲットに狙いを定めます。
「よし! 次はあれだ! ヴァン!」
「は、はい! ・・・ええ“っ!?」
プラッテ様が指さす相手を見て、私は驚いてしまいます。何故なら、相手はなんと私の幼馴染かつ憧れのルイーゼちゃんではないですか!
このままスカートめくりをすればきっと嫌われる! ・・・だけど、ルイーゼちゃんのおパンツを見てみたいという欲求が勝り、
(ごめん、ルイーゼちゃん! 僕の本心じゃないんだ!)
そう心の中で謝りつつ、自ら編み出したスカートめくりの風魔法、その名も『舞ッチング』を繰り出しました。
「きゃ~~~~!!」
「「おおっ・・・ え“!?」」
慌てふためくルイーゼちゃんのパンツを見て、私は絶句してしまいます。
なんと、黒のTバックでした。
あまりの衝撃に限界を超えた僕は、鼻血を盛大に吹き出し気が遠のいていきました。意識が完全に途切れる前には、
「何すんのよ! この、バカ!!」
という罵倒と、頬への殴打の衝撃とともに、
「教養三十点、気品五十点、性格三十点、情熱、限界突破の百点! 総計 フタヒトマル(二百十点)! 本日の最高点だ~!!」
ベストスコアを告げるプラッテ様の雄叫びが聞こえました。
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暫くして気がつくと、隣でプラット様が覗きこんでいます。
「大丈夫か?」
「ええ・・・ なんとか」
僕が答えると、プラッテ様は、
「まさか、伝説のTをこの田舎で拝めるとはな・・・ あの女、さては勇者の末裔だな」
遠い目をして、意味不明な事を呟いていました。
そうして、来る日も来る日もプラッテ様とスカートめくりに勤しみ、刻が過ぎていきます。すると、初めは嫌々だったのに、いつしか楽しんでいる自分がいることに気付いてしまいました。
(ち、違うんです、師匠! これは無理矢理やらされているだけで、自分の意思ではないんです!)
自分が自分でなくなっていく危険な感覚を、私は慌てて打ち消します。
「お、次はあれだな」
プラッテ様の言葉で我に返った私が目線を追うと・・・
そこには後ろ姿でもきりっとしているのが見て取れる女性がいました。少々、体格が良すぎる気もしますが・・・
「いけ! めくりロボ・ヴァン!」
いつの間にか便利ロボ扱いになっていますが、さして気にすることなくターゲットの女性にむかって風魔法『舞ッチング』を放ちます。
ふわぁり
「「おお! ・・・お?」」
女性のスカートがめくれたと思ったら、太ももが異様に逞しく・・・
「な、なんだとお!?」
声もやたらと野太い感じで、不思議に感じていると、
「お前らかあ、ごらぁ!」
振り向いたその女性は、青髭を生やしたごついおカマでした(汗)。
「はっはぁ、水色のパンツとはまた・・・ 教養二十点、気品二十点、性格三十・・・」
さすがはめったな事では動じないプラッテ様。女性、いやおカマのパンツも冷静に評じ、私の尊敬度が大幅に上がります。ところが、
「てめえかぁ! 絞め殺すぞぉ!」
ごついおカマは姿に似つかわしくないブロンドのサラサラヘアーを振り乱し、プラッテ様にベア・ハッグを極めました。
「う、うげぇ・・・ き、ぎもぢ、いい・・・」
泡を吹き出し、白目をむくプラッテ様。
(これはまずい!)
このままでは英雄が死んでしまう! と、おカマに向かって『エアーニードル』を放ちました。
しかし・・・
「カァーーー!!」
なんと! おカマの気合で、私の渾身の風魔法はかき消されてしまいました!
(え・・・? 熊をも倒す魔法なのに・・・(汗))
「甘いな。世の中には、上には上がいるんだぜ、坊主?」
そのうえ、おカマはドヤ顔まで極めてきます。
私が呆然としている間に、プラッテ様は気を失ってしまいました。
その後、私が事情を説明すると、おカマは納得してくれたようで、プラッテ様が回復するのを一緒に待ちます。
そうして暫くするとプラッテ様が目を覚ましました。
「おや・・・ ここは? ハッ! そうだ、彼女は?」
目を覚ますと同時に、辺りを見回します。そして、自分を締め落としたおカマを見つけると、
「き・・・ 君だ! あの情熱的なハグ・・・ 君こそ、私の理想の女性だ! ぜひ、私と結婚してくれ!」
いきなりプロポーズしたのですから、私は大いに驚いてしまいました。
「あ、あの・・・ プラッテ様? その人、おカマ・・・」
「ちっ、しょうがねえなあ。魔物さえ絞め殺したこともある『カマ・ハッグ』を褒められちゃあな」
止めようとしたのですが、何故かおカマの方も即承諾。めでたくカップル成立となってしまいました。
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あの衝撃の出来事から三ケ月後。
プラッテ様とおカマ(名前はキャンディという)は周囲の反対を押し切って、ご結婚されました。
やはり伯爵ともなると、女性の趣味が一般人とはいささか違うのだろうと私は思うことにしました。
結果、私はお役御免となったのですが、何故かスカートめくりの罪は私一人に集中し、街を出る羽目になってしまいました。
今はこうして、次の雇い主を探す旅の途中です。
できれば次の雇い主も、プラッテ様と同じような変態であって欲しいと密かに願っています。
実は、あのスカートめくりの魔法が癖になってしまいまして・・・
(すみません、師匠。僕、目覚めちゃいました)
心の中で師匠に謝りながら、私は指先を軽く振ります。
すると、少し前を歩いている女性のスカートがふわりと舞い、その女性はスカートを押さえながら何が起きたのかと辺りを見回していました。
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は異世界短編ものの5作品目で、魔法使いの風系の物語です。
今まで火、氷、風と投稿しましたが、それ以外の系統の話も書いていく予定ですので、ぜひお読みください。
※下に別の作品のリンクをが貼りましたので、そちらもぜひ読んでみて下さい。