モブの体育祭
今日は高校の体育祭。
天気は良くないけど、盛り上がっております。
運動部のエースのあいつが評判通りの力を発揮したり、帰宅部で普段冴えないあいつが突然予想外の能力を発揮したり。
女子がそれにキャーキャー言ったり。
うん。盛り上がっている。
名もなきモブの俺も、途中途中で「えええ!?」とか「マジかよ……」と言う大事な役割をそつなく果たして、しっかり参加。
俺の出場種目は、スウェーデンリレーのアンカー。
モブのくせにリレーのアンカーかよ、なんて思われるかもしれないけど、勘違いしないでくれ。
最終種目の、一番盛り上がる方のリレーは男女混合8×百メートルリレー。男子と女子が交互にバトンを繋ぐ、この体育祭のメインイベントだ。当然、クラス対抗戦での配点もめちゃめちゃ高い。
スウェーデンリレーっていうのは、四人の走者がそれぞれ、百、二百、三百、四百メートルを走る、後に走るやつほどきつくなる謎ルールの地味なリレーだ。
当然誰も四百メートルも走りたくないから、モブ同士でじゃんけんをして、負けた俺がアンカーにされた。
午後の部の競技がほぼ終わったところで、天気がいよいよ怪しくなった。今にも雨が降りそうなので、一番最後のはずの男女混合リレーを先にやることになった。スウェーデンリレーは最後にまわされた。
要は、男女混合リレーを雨で中止にしたんじゃ盛り上がらないから、天気が持ってるうちにやっちゃおうってことだ。
実に正しい判断。
で、当然男女混合リレーはめちゃくちゃ盛り上がった。
途中女子がバトンを落としたり、その遅れを男子が必死の走りで挽回したり、なんていう胸熱のドラマがあって、最後にぎりぎりでうちのクラスが勝った。
そこで終わればよかったのに、問題が起きた。予報90パーセントの雨が、降りそうで一向に降らないのだ。
で、クラスの優勝を懸けた最終種目が、モブのスウェーデンリレーになりました。
生まれて初めてクラスの連中に囲まれて「頼む」とか「勝ってくれ」とか拝まれてさ。
いや、俺名もなきモブよ? クラス一の美少女の若松さんに「お願い、頑張って」なんて言われて鼻血出そうになったけど。俺モブなんだって。
仕方ない、クラスのために必死で走ったよ。四百メートル。
最後はモブ同士で競ってさ。でもこっそり地味に走り込んでた俺がぎりぎりで勝ちました。
ゴールした途端、駆け寄ってきた若松さんに抱き着かれたけど、俺はモブだし多分酸欠の幻覚か何かだと思う。