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03.初めてイベント参加




「な、なんで突然!?」 


しかし投稿文にはそれ以上の情報はなく、混乱するまま私はSNSに飛んだ。そこでは既に2玉子さんの投稿をみたおしへしファンたちがざわめいていた。


『2玉子さんが神イラスト本出すって現実ですか?』


『私もサークル参加するけど隣だったらどうしよう……』


『通販なかったらどうしよう』


あげられていたイラストについて賞賛する声はあれど特に衣装に深く言及する人はいない。当然と言えば当然だけれど違和感を抱いているのは私だけらしい。


「連絡……連絡…………」


連絡してみるべきだろうか。でもなんて?

突然『貴方の描く絵が私の前世と似てるんですが貴方も転生者ですか?』って送ってもドン引きされて返事すらないのがオチではないだろうか。それで連絡窓口であるイラスト投稿サイトでブロックでもされたら目も当てられない。


そもそも同じ転生者だったからと言って何を話せばいいか分からない。それならお互いに知らないまま今の人生を歩むべきではないか。

でももしも、もしも相手も私と同じ疎外感を感じていたら……私たちはお互いにとって唯一の理解者となれるかもしれない。

ならば、


「取り敢えずメッセージを送ってみるだけ送ってみるか」


私は文言を考えながら2玉子さんのプロフィールにとびメッセージを……


送れなかった。


2玉子さんはそもそもメッセージを解放していなかった。公式公認アカウントでしかやり取り出来ないようにしているようだ。そういうミステリアスなところが2玉子さんの魅力ではあるが、今回ばかりはがっかりである。


「行くしかないのか……COMIC EDEN FLASH」


COMIC EDEN FLASH……企画会社が毎年秋に東京で開催する大きな同人誌即売会。私は行ったことないので毎年フォローしてる絵師さん達が参加してるな〜くらいの認識しかないけれど、毎年人が多く集まることは知っている。


投稿文には通販について書かれていないので、現地頒布だけかもしれない。そうなると転生者か確かめる事を抜きにしても喉から手が出る程欲しい。私が買わないで他に誰が買うんだ。

幸い私が住む神奈川県から東京都は離れすぎていることもない。

私は決意を固めた。



「冬美。私東京に行くわ」


私は次の日の昼休みに冬美に私の決意を打ち明けた。

冬美は何のことか分からず一瞬ぽかんとした後、紙パックの紅茶を啜りながら話を続けた。


「それって進路の話???」


「いや、同人イベントに参加したいと思って」


「あ〜〜〜何だびっくりした。凄い真剣に言うからさ。東京なんて日帰りでしょ?そんなに真剣になる必要なくない?」


冬美の言葉は最もだった。東京なんて小学生でも1人で行ける場所なのだからここまで身構える必要はない。


「そうなんだけど……私、普段は生活圏から出ないで生活できてるから未だに切符の買い方も分からないのよ。普段は定期だし」


「あ〜〜〜〜〜〜流石お嬢!ICカード文明でよかったね。は〜〜〜〜〜〜おもろ。そっかそっか」


冬美は子供扱いするように私の頭を撫でる。され慣れないその行為に私はちょっと心がむずむずしたが、大人しくそれを受け入れる。


「ね、ねぇ。一緒に行ってくれたり……」


「私はパス」


「ぐっ!」


冬美はライトオタクで漫画やアニメは見るが、同人誌には興味がない。私だっておしへしの、2玉子さんのサークルがなければ現地参加なんて考えもしなかった。


「サークル参加?一般参加?」


「一般参加」


「あら〜〜〜大変ね。頑張れ」


「ぐぬぬ……」


私はイベント参加素人。イベントまであと1ヶ月あるから当日までにイベント参加の方法を調べないと!


こうして私のイベント参加までの道のりが始まった。



「まずはどうやって入場するかよね」


サークル参加と一般参加が違うことは知っているが、カタログや午前チケットとかなんかイベントによって色々あるらしい。


「えっと、コミックエデンは当日入場券購入制なのね」


チケットの抽選がないのは幸いだ。これで2玉子さんのイラスト本が手に入る確率が上がった。


次にサークルの場所を把握する方法。当日パンフレットもあるらしいが事前にWEBカタログで場所を確認する。専用サイトでプレミアム版もあるが、イベント参加は今回だけのつもりなので無料版を使わせていただく。


「【東3ホール・ム23a】はここら辺なのね……。ついでに他にサークルがないか探そう」


カタログを見る限りおしへしのサークルは全部で3つだった。私は意外と少ないなと思ったけれど、総合イベントでアニメ化もしてないのに3つあるのはまぁまぁいい方みたいだ。


次に持ち物。

おしへし本以外に買う予定はないけど、お釣りのいらないように千円札と100円を用意できるだけ用意しておく。

あとは普段のカバンとは別にトートバッグに年齢を確認できるもの、万が一にレインコート。

そして1番重要なもの。


そう、差し入れである!!!

私の思いを伝えるには現地だけでは語れないので差し入れと共に手紙を添えて渡したい。しかもこれが2玉子さんと繋がれる唯一の手段なので失敗できない。

しかし、そもそも私は2玉子さんの情報を何も知らない。甘いものが好きか、歳は幾つなのか、男なのか女なのか。

そのため非常に悩んだが、悩んだ末に紅茶にすることにした。男か女か分からないなら美容系は避けたほうがいいだろうし、お菓子とコーヒーも好き嫌いがある。

紅茶なら賞味期限も長いしバラエティパックもあって包装が可愛いものも多い。調べると急須がないことも考えてティーパックのものがいいらしい。


さて、最大の難関は手紙である。

名前とイラストが最高である事を伝えるのは絶対だが、どうやってそれとなく転生者であるか聞けばいいだろうか。


「何か転生者でしか知り得ないメッセージ、しかも私がカトリーヌ・リーシャルだとさりげなく伝えられる方法はないかな……」


向こうの世界の文字でメッセージを添えてみようか?カトリーヌ・リーシャルのサインだったら書き慣れているし、身近な人だったなら見慣れている。私だと気づかせるには十分な上あくまで署名なので、反応がなければ違ったということでダメージも少ない。

よし決めた、カトリーヌ・リーシャルのサインを書こう!


こうして全ての準備を整えて、私はイベント当日を待った。




そしてイベント当日。

私は早朝に家を出て9時ごろに会場へと辿り着いた。会場待機列には既に多くの人のが並んでおり、人慣れしていない私は少し怯んでしまう。この中に2玉子さんの同人誌を求めている人が一体何人いるのか……無事に買えるか不安になる。

1時間待ちようやく開場し、入場券を購入して入場した私はすぐさま2玉子さんのスペースを目指すが、人混みと知らない土地故に辿り着くまでそれなりに時間がかかってしまった。


「あっ、あそこかな?」


スペースには既にたくさんの人が並んでおり私は動揺してしまう。頼むから私が買うまで無くなりませんように。どうか100部くらい刷っていて欲しい。

しかし、列が進むにつれ前の人たちがひそひそと騒ぎ始める。


「ねぇ、売り子かっこよくない?」


「あの子が2玉子さんみたいだよ!?」


「え!?男の人だったの!?」


「しかもイケメンじゃん!!!」


え、2玉子さんって男なの???

おしへしが女性向けジャンルっぽくて同人誌まで作るくらいだから女性だと思っていたので私は驚いた。美容系にしなくてよかったが、紅茶もどうなのだろう。男の人って紅茶好きなのだろうか。


珍しく緊張する私をよそに順番は近づいてきて、ついに私の番が回ってきた。


「………!」


そこには、確かに美青年が立っていた。


「わ……わ………あの……………」


 突然の美青年に考えていた言葉が全て飛んで語彙力が0になってしまった。しかし、彼はこんな反応に慣れているのか長いまつげで縁取られたアーモンド色の薄い色素の目で私を冷たく見下ろして、薄桃色の唇を開く。


「すみません、列混んでるので急いでもらっていいですか?」


「あ!ごめんなさい!!!


 思わずじろじろ見ていたことに気づいて慌てて私は差し入れを差し出す。


「2玉子さんのイラスト本ニ冊ください!これは差し入れです!!!」


「ありがとうございます」


 イラスト本を受け取り、慌てて列から飛び出す。


 は、恥ずかしすぎる!

 頭の中では「いつも素敵なイラストありがとうございます」って言いながらスマートに渡すつもりだったのに、完全に迷惑な客になってしまった。今日のことを思い出した時に嫌な記憶として思い出されたら嫌すぎる。


 列から外れると、同じ様に列から外れた人たちが2玉子さんチラチラ見てその度に楽しそうに声を上げている。


「2玉子さんイケメンすぎ……」


「ね〜〜〜幾つくらいなんだろ〜〜〜」


「芸能人みた〜〜〜い。写真撮っちゃお!」


 え?


 心の中で分かる!と相槌を打ちながら場所を移動しようとしていた私は、最後の一言に驚いて振り向いた。私の記憶では会場内での写真撮影は禁止だったはずだ。けれど女の人たちは気にすることなく2玉子さんにスマートフォンのカメラを向ける。

 どうすればいいか頭の中で色々考えたけど、生まれる前からの脳筋の私は何かを言う前に先に身体が動いていた。






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