表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/65

第3話 王都への旅

翌日、僕は馬車に乗り王都へと出発した。

ジーメンス伯爵家の馬車はあるもののお抱えの御者はいないので、警護に同行した兵士のハンスがその役目を兼ねていた。


「いち・に・さん…」


僕の背後ではメイトのメアリーが荷物の確認をしていた。

ハンスによると順調に進んだ場合、王都までは5日ほどの行程らしい。

以前の述べたがジーメンス領は王都から遠く離れた僻地である為裕福では無い。

食料などの物資は、とりあえず往路の分のみを用意していた。


「うん、数は大丈夫そうですよ。」


メアリーが僕の横に座り、笑いかけてきた。


「・・・」


「お坊ちゃま…」


僕が答えなかったからか、メアリーが僕の顔を覗き込んできた。


「大丈夫ですか…?」


「あ、うん。メアリー、何かな?」


「あ、いえ。何でもないです。」


「そう…、う、む~」


メアリーが突然、僕をぎゅーっと抱き寄せてきた。ふっくらしたものが、僕の顔に覆い被さる。


「カール坊ちゃま、今は大変だと思いますけど、メアリーが付いてますかね。」


「む、む~」


「おい、メアリー。お前、何坊ちゃんで遊んでんだよ…」


御者台で手綱を操っていたハンスがこの様子を見てため息をついた。


「ん、ぷは! メアリー、苦しいよ。」


「ごめんなさい、坊ちゃま。でも何かあったら私に相談してくださいね。奥様から頼まれてますから!」


「うん。ありがとう…」


メアリーは僕より8つほど年上で、僕が物心付いたことから身の回りの世話をしてくれていた女性だ。昔から姉の様に思っていた。


「ところでハンス。王都までは5日ほど掛かるって聞いたけど、その、道中って安全なのかな…?」


「はい、この先の峠道を抜けてしまえば街道に出ます。街道を町伝いに進んでいけば危険も無く進めるでしょう。盗賊も、王国の第2騎士団に粗方討伐されたようですからね。」


そう、かつては街道筋には旅行者や商人の隊商キャラバンを狙った盗賊等が跋扈していた。もう数十年以上も前に大陸全体を巻き込む戦争があり、治安の悪化はナイザール王国(このくに)でも例外ではなく、王国騎士や貴族の私兵が盗賊に身をやつしたこともあったそうだ。

その後戦乱も収まり、王朝が変わった新ナイザール王家の長年の努力で、盗賊は次第に駆逐されていった。それ以来、街道は比較的安全に保たれてきたのだ。


事実、王都への旅は然したる危険も無く、順調に進んでいった。

そして僕達は4日掛け、王家直轄領と隣接する貴族領の町まで到着した。


「ここはアベール侯爵の領地になります。本日はこの町に宿を取りましょう。」


「ここの領主様…、アベール侯爵へご挨拶しなくて良いのかな?」


「本来ならばするべきでしょうが、アベール侯爵は人族至上主義の方ですからお会いするのは…」


ハンスが首を振った。

人族至上主義…、これは僕のような獣人族(もちろん他の亜人族もそうであるが)とは相いれない思想である。

読んで字のごとく、人こそ国を治めるべき種族でありそれ以外は被統治者、もっと言えば奴隷のような存在であるべきだ、と言うような思想だ。

現在のナイザール王家はそうでは無いようだが、残念ながら貴族の中にはそのようなものが少なからずいるのだ。


「そんな危険な思想の領主がいる町に、何故泊まらないといけないの?」


メアリーがハンスに問い掛けた。


「王都まではまだ半日掛かるんだ。この時間から向かっても、夜間は門が開いていないからな。」


「そっかー。なら仕方ないね。」


「…カール坊ちゃま。我が馬車にはジーメンス伯爵家の紋章を掲げています。さすがにそのような馬車に、表立って何かしてくるような連中はいないでしょう。しかし念には念を入れて、侯爵の目が届きにくい場所の宿を通りますので…」


なるほど、それなら安心だ。

明日はついに王都だ。義父上ちちうえ、何とか無事だと良いけど…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ