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第1話 たぬき獣人カール

「おや、カール。手伝いに来てくれたのかい?」


「うん。そろそろベルントさんの畑が収穫時期だって聞いたから。」


「いつも悪いねえ。助かるよ。」


目の前の農夫・ベルントがにこやかな表情で僕を見つめる。

僕は農夫へ笑顔を返してから、ベルントの畑に入った。


僕の名前はカール、狸の獣人だ。10歳くらいらしいけど、正確な年齢は分からない。本当は長ーい名前(フルネーム)があるんだけど、一緒に作業する農夫も含め、普段その名前を呼ぶものはいない。


「カール、伯爵様はまだお帰りにならないのかい?」


ベルントが僕に問う。


「うーん、もうじき参勤の時期は終わるはずだって義母上ははうえが言ってたんだけどね…」


伯爵様と言うのは、僕の義理の父の事だ。

義父はバルトルド・フォン・ジーメンス、ジーメンス伯爵家の当主である。

ジーメンス伯爵家はナイザール王国の王族に連なる家系で、その初代は王国が興った頃からの重臣だったらしい。

しかし年月が流れるうちに、どういうわけか伯爵家は王都から遠い田舎が所領となったのだった。


「伯爵様も大変だよねえ。ここから王都まで行くと馬車で何日も掛かるんだろ?」


「そうらしいけど、僕王都なんて行ったことも無いよ。」


「でも貴族の子弟ってのは、王都の学園に通ったりするんじゃないのかい?」


「うーん、でも僕は獣人だから、ねぇ…」


そう、僕はジーメンス伯爵家の子、と言う事になっている。

10年ほど前、ジーメンス伯爵が領内の山中で狩りに出た時に赤ん坊だった僕を拾ったらしい。

僕の実母(と思われる狸獣人)は僕を守るようにして息絶えていたそうだ。

刀傷等では無く何かに噛まれた傷があったそうだから、おそらく魔物か大きな獣に襲われてしまったのだろう。

子宝に恵まれなかった義両親りょうしんは僕を養子にした。

近隣の領主・貴族達には奇異の目で見られたものの、のどかな田舎であったジーメンス伯爵領の領民は優しく迎えてくれたそうだ。


「そうかい。カールはワシ達には自慢の若様なんだけどねえ…」


「そ、そう? でも僕は剣も魔法も得意じゃないよ。頭が良いわけでもないし。」


僕は、それほど自分に自信が無い。

貴族の子弟であれば剣術が出来たり、魔法が使えたりするものだ。

しかしそもそも僕は人間じゃないし、狸獣人は他の獣人族の様に力が強いわけでもない。

そんな僕を何故、義両親りょうしんは養子にしたのだろう。


…そろそろ日が暮れてきたようだ。今日の作業は終わりだな。


「それじゃ僕は家に帰らないと行けないから、そろそろ行くね。収穫した小麦はここに置いとくから。」


「そうだな、助かったよ。カール。」


「じゃ、またね!」


僕はペコリと頭を下げると、自らの屋敷に向かって走り出した。

時を同じくして、僕の頭上を一羽の伝書鳩が同じ方向へ向かっていた。


王都からの手紙かな?


僕は伝書鳩の姿をチラッと見上げた。

その伝書鳩が運ぶ手紙が、重大なものだという事を知らずに。

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