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その力は、誰かのために振るえ。
それが爺さんの口癖だった。
クソみたいな慣習の多い里で育ったオレが、周囲から明確に避けられていると悟ったのはまだガキの頃だった。
毎朝鏡を見るたびに、里の連中とまるで異なる顔をしている自分の顔を見る。
ガキながらに、他の人とは違うのだと理解するには十分だった。
両親はいない。
物心ついた頃から、爺さんと二人きりだった。
なんでもオレは赤子の頃、森で爺さんに拾われたらしい。
大方親がオレを森で捨てたのだろう。
酷い親だとは思うが、顔も分からないので興味はなかった。
オレを拾った爺さんは、はっきり言って変人だった。
無口で無表情。
それでいて目つきは刃物のように鋭い。
里の外れに小屋を建て、そこで息を潜めるように静かに過ごしていた。
時折、森の外に出かけていたが、どこに行ったかまでは教えてくれなかった。
ただ、帰るたびに全身は傷だらけで、それでも出かけるのを辞めようとはしなかった。
力の使い方も、戦い方も、礼儀も。
大体のことを爺さんが教えてくれた。
互いに口が悪く、いつも怒鳴られ叩かれて。
決まって殴り合いになり、大概負けた。
爺さんは半端なく強かった。
だから里の連中は、爺さんには何も言えないのだと思った。
そんな爺さんが、オレは大嫌いだった。
爺さんはオレがガキの頃から爺さんだったから。
別れは存外早くに来た。
ドラマチックな出来事も、涙を誘うような事件もなく。
ただ草花が枯れるように、穏やかに逝った。
その顔は、なんだか昼寝をしているようで、本当にいなくなったのか心配になるほどだった。
爺さんの願いで、遺体は燃やした。
遺品は小さな箱に入れ、一緒に燃やした。
そんなに物に執着する人じゃなかったから、燃やす手間はそれほどなかった。
そうして空へと昇る煙を見て、オレはようやく爺さんが死んだのだと腑に落ちた。
ふと、頬を伝う水滴を拭って。
煙が目に染みるな、と他人事のように思いながら。
そして一人きりになったオレを、里の連中は追放しなかった。
きっと感じがよくないからだとか、オレが強いからとか、きっとそんなしょうもない理由だろう。
面と向かって言う度胸がない癖に、一丁前に悪口だけは言える。
ここはクソだ。
改めてそう悟るのに時間はかからなかった。
だからこそ、爺さんはあんなところで一人で暮らしていたのだ。
ならオレも、同じように振舞うのが正解なのだろうと、思った。
その力は誰かのために振るえ。
爺さんの教えは、胸の中にしこりのように残った。
いくら問答しても、それが数年経っても、答えは出ない。
ただ強くなりたいと。
教えられた技を磨き、一度も勝てなかった爺さんを思い浮かべ、修行を続けた。
その過程はあまり苦痛ではなかった。
強くなることは楽しかったし、努力することも楽しかった。
ただ、誰かのために力を振るう。
その言葉の意味を理解できる気配は、いつまで経っても来なかった。
しばらくしてオレは、森の抜け方を覚えた。
結界を解除させず、悟らせずに出入りができるようになった。
そうして最初に始めたのが、盗賊狩りだった。
盗賊を選んだのは、それが盗んだものだからというのと、単純に気が楽だったからだ。
振るった力は弱者のためになる。
少なくとも、彼らが正義である可能性は少ない。
なにより、生活をするのにはお金が必要だった。
里で生活していても、お金はいる。
仲間外れのオレはなおさらだった。
だから、戦って、戦って、戦い続けて。
時に怪我もしたし、命の危機もあった。
それでも一人で戦い続けた。
一人の方が、気が楽だった。
一人なら、失うものは何もなかった。
事あるごとに問い続ける。
何のために戦うのか。
生活するために。
それ以外の答えが出ることはなかった。
だから、こうも思った。
戦わずに生きていける連中と、オレは何が違うのだろうかと。




