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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第3章 ナマク村

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34

「それで、勧誘の方はどうなったんですか?」


 リーゼにそう言われて、サトーは全ての事態を把握した。


 早朝、彼らは支部の一室に集まっていた。

 今回の事態を収束させた功労者だから、とライナは話しており、お駄賃も必要ないらしい。


 依頼も無事に完遂し、ザハの面目を保つこともできた。

 全てが綺麗に解決できたと満足して眠りについたのが昨日のこと。


 冷や汗を大量に流しているサトーを見て、リーゼは無言でその圧力を増していた。


「…………なるほど、昨日あれだけ威勢よく啖呵を切ったというのに、何一つすることなく帰ったと。そういうことですか?」


 何も言えなかった。

 昨日、酒に当てられたのかすれ違いざまに「あとは任せろ」なんて言ってしまったのだ。


 勿論酒は吞んでない。

 ちょっと、ちょっとだけ興味はあるけど、未成年のはずだからいけないはずだ。


 しかし、今はそんなことはどうでもいいのだ。

 問題は、シャグラと話をして、満足して帰ってしまったことだ。


 お礼を言うことはできたので、きっと失礼には当たらないだろうけど、肝心の目的を果たすことができていない。

 そもそも、彼を勧誘するのが当初の目標だったのに、それは全くもって進んでいなかった。


「ま、まぁ、彼も別に悪気があったわけじゃ…………」

「ないから余計にタチが悪いのです」


 シェルアのフォローも、リーゼの的確な突っ込みによって無に帰る。

 彼女らは知らないが、それなりに話していたし、なんなら結構語っていた。


(まずい。この流れで「お礼だけ言っといたから」なんて言ったら殺される!いやだ、俺はまだ死にたくないし、なんならシェルアの制服姿をもう一度だけでも見たい!)


 サトーは無音で、ごく自然に土下座の体勢に移行していた。

 手はきちんと揃えられ、頭は床にぴったりとつけている。


「…………なんですか、それは」

「謝罪の意。それを示す行為です。多分」


 確証がないので、念のため予防線を張っておく。

 間違って恥を重ねてしまうのだけはなんとしても避けたい。


 それを見てリーゼも許すつもりになったのだろう。

 大きくため息を吐くと、頭を上げるように指示した。


「そもそも、彼が仲間になる可能性のほうが低いのです。今回のところは一旦撤収するのが現実的でしょう」


 今日ここに騎士団の一団が来る。

 姿を見られるのは非常にマズいので、退散するためにわざわざこんな早朝に起きているのだ。


 そんな理由からか、周囲はしんと静まり返っている。


「そうだね。また機会があると思うし。わざわざそのために起こすのも悪いしね」

「なんか、ホントごめん」

「再度言いますが、あなただけのせいではありません。話しかけるのを躊躇った我々にも非があります」

「うん。だからそんなに謝らないで」


 シェルアに肩を軽く撫でられ、サトーは思わず感涙した。

 因みに、邪な想いがあったことを、彼は忘れたことにしていた。


「置いていきますよ」

「ほら、サトー早く!」


 気が付けば二人は荷物をまとめ、出口へと向かっていた。

 サトーは部屋に立てかけられた盾を背負い、自分の分担の荷物を持つとその後を追った。


「…………すげー静かだな」

「大層な盛り上がりでしたからね」


 やはりというべきか、支部の一階は静まり返っていた。

 シェルアが語った内容では、早朝でも働いている人がそれなりにいたらしい。

 流石に昨日までの異常事態の対応に追われていたのだから、疲労だって相当なのだろう。


「とりあえずは別の支部に行きましょう。『連れなる社』が解禁されるまで簡単な仕事をこなしつつ、再度ダンジョンに挑む、というのが適切かと」

「そうだな。どっちにせよ、仕事しないとお金が怖い」

「そうですね。結構な額を頂きましたが、それでも何もしないというわけにもいきません」


 三人はナマク村の出入り口の一つへと向かった。


 そこには一頭のシジマと、それを操縦する人がいる。

 昨日のうちに支部長が用意してくれていたものらしく、近くの別の支部まで連れて行ってくれることになっていた。


「あ、やっと来た。おーいシェルアちゃーん!」

「えッ!?ライナちゃん!?」


 その近くにひと際大きな声で挨拶をしてくる人物がいた。

 短い髪に受付の制服を身に着けた女性、ライナだった。


 いつからそんなに仲良くなってたのか、と内心慄くサトーを他所に、二人は手を重ねながら話を進める。


「どうしてここに…………?朝早いから見送りしなくていいって言ったのに」

「えへへ…………まぁ、ちょっと色々あってね」

「色々?」

「さてと、どこに行きますかお嬢ちゃん達?オジサンが案内してあげるよ」


 そういって荷台の先頭から顔を出したのは、あのシャグラだった。


「「「…………」」」


 伸び放題だった髭はきちんと剃られ、ボサボサだった髪はワックスか何かでオールバックになっている。

 こうして整った顔を見ると、この人かなりのイケメンだった。


 どうしてこんなところにいるのかとか、そもそもなんで荷車の先頭に座っているのかとか。

 三人は一様に、言葉を失っていた。


「あれ?もしかして嫌だった?」

「…………いや、なんで?」


 辛うじて戻ったサトーが、なんとかそう尋ねる。

 するとシャグラから、信じられない言葉が飛び出てきた。

 

「だから、オジサンが案内してあげるって」

「…………は?」

「失礼ですが、本気で言ってますか?」

「本気本気。じゃなかったら、わざわざ自分のシジマを連れてこないよ」


 リーゼの問いに、何故かシジマが鼻を鳴らした。


 どうやら飼い主であるシャグラの代わりに答えたらしい。

 どことなくふてぶてしい雰囲気を醸し出しているのは気のせいだと思いたい。


「ま、そういうことだ」


 そう言って荷車の奥から顔を出したのは支部長だった。

 

 目の下に真っ黒なクマがあり、明らかな寝不足の顔色だった。

 眠たそうに瞼を擦りながら、支部長は説明をする。


「ちと厄介な依頼があってな。条件を満たしているやつがあんまりいないんだ。で、こいつなら満たしてるんで受けてもらって、ついでにアンタらにも同行してもらおうと思ってな。どうせ『連れなる社』は閉鎖されてるし丁度いいだろ?」

「厄介な依頼とは?」


 リーゼがそう尋ねると、支部長はこう言った。


「エルフの森。そこにとある書簡を届けてほしいとのことだ」


 エルフ。


 聞き間違いでなければあのエルフだろう。

 まさかこんなところで聴けるとは思ってもみなかった。


 なにせ人間以外の種族は殆どいないと聞かされていたものを、まさかこんなタイミングで聴けるなんて想像もしてなかった。


 ワクワクと心を躍らせている一方で、シェルアとリーゼの顔は明らかに曇っていた。

 それを見た支部長は愉快そうに笑う。


「どうやら知ってるらしいな。一応、理解できていないサトーに伝えとくと」

「え、あ、はい」

「この依頼、A級依頼だ」

「……………………へ?」


 一瞬何を言ってるのか分からなくて、思わず目を白黒させてしまった。

 そして数秒経って、ようやくその口が開いた。


「…………因みに、魔獣の討伐依頼は?」

「ありゃC級だな」

「これは?」

「A級」

「…………冗談、ですよね?」

「残念だが本当だ」


 にやにやと、意地悪そうに支部長が笑う。

 ふとライナを見ると、呆れた様子で首を横に振った。


 意図を察する。

 諦めろ、だ。


「ま、そんなわけで、これからよろしくねぇ」


 一人、あっけらかんというシャグラを見て、サトーはこう思った。

 やっぱり、ちゃんと誘うべきだった。と。

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