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エルフィン王国。
王都、城内にて。
「例の件はどう?」
「今のところ、問題はないとのことです」
無人の廊下を歩く二人組がいた。
片方はスミレ色の髪の少女だった。
二つでまとめた髪は縛る必要がない程度の長さしかない。
紫色のドレスを身に着けているが、華やかさはあまりなかった。
もう片方は体長が三メートルを遥かに超える巨体だった。
全身を覆う鎧は、皮膚を一切露出させないよう造られているのか、さながら城壁のような堅牢さだった。
背負っているハルバードもまた、その巨体に見合う大きさを誇っている。
「やぁやぁ。元気そうじゃの」
頭上から声がした。
それを聞くと、少女はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
現れたのはその少女よりも遥かに幼そうな子供だった。
ピンクみのある茶色の髪は、被られた独創的な帽子によってそのほとんどが隠れている。
メガネをかけており、服装も司書のような装飾が施されていることから、その見た目のわりに賢そうな印象を受ける。
そんな彼女は、あろうことか宙に浮いているベットに乗って彼女の目の前に現れた。
「『外交』を担う君が、そんなに表情を表にしてもいいのかい?」
「…………それはツークの役目でしょ。私は『財政』担当」
見た目に負けないくらい独創的な話し方の彼女に対し、少女は毒々しくそう吐き捨てた。
その態度をまるで気にすることなく、ベットに乗ったまま要件を伝える。
「姉上からの連絡だ。現時点で滞りなし、だそうだ」
「あっそ」
短文。
あまりに短すぎる対話を、お互いあまりに気にしていない様子だった。
それを聞いていた甲冑姿の人物が、口を開いた。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。コネッサ様」
鎧で遮られているからか、低く籠った声だった。
「うむ。なに、大したことではないのだよ」
えっへんと胸を張るが、現在ベットの上で寝っ転がっている状態である。
当然、威厳もへったくれもない。
なにより、そんな様子をすんなりと受け入れているこの二人が些か異常というべきだろう。
彼らの人となりを知らぬ者が見れば衝撃を受けかねない光景だった。
「で、他に用は?」
「ん?いや特には。君の顔を見ておこうと思っただけだが」
「そ」
それだけ言うと、踵を返してその場を立ち去ってしまう。
残された甲冑姿の人物は、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。ウィレ様は少々気を乱しておいででして…………」
「だろうな。こればかりは吾でもどうすることもできんことだ」
うつぶせの姿勢に移行しながら、さも退屈そうに枕に顔の下半分を押し付ける。
「それでは、私もこれで。失礼いたします」
「うむ。あれの面倒は大変だろうが、精々頑張りたまえ。それと、吾にできることがあれば、なんでも言うといい」
「有難きお言葉、大変嬉しく思います」
そういうと、甲冑姿の人物は大層な音を鳴らしながら少女の後を追う。
それを見届けた彼女は、ため息を吐くと仰向けになり、天井を見上げた。
「…………ままならんな、何事も」
「コネッサ様、お呼びでしょうか?」
そう声をかけたのは、凡庸的な姿の騎士だった。
鎧も武器も、その立ち姿までもがあまりに平凡で、同じ格好をした集団がいれば紛れてしまうほどに個性がない。
発せられた声は高くなければ、間違いなく凡百の騎士だろう。
「そちらはどうだ?」
「現時点では特に問題ないとのことです。トラブルがあったため、むしろ好都合だと」
「あい分かった。して、どうする?」
ベットに寝っ転がったコネッサと呼ばれた少女は、騎士にそう尋ねる。
返答は、簡素なものだった。
「いえ。今は構いません」
「…………承諾した。好きにして構わぬぞ」
「畏まりました。それでは」
騎士は深々と頭を下げると、ウィレら二人とは逆の方向へと歩き出す。
それを見送ったコネッサは、再度全身の力を脱力させる。
廊下には、既に人の気配すら残っていないのだった。




