25
ナマク村を出て四日目。
サトーとリーゼは、さながら死人のような有様で帰路へとついていた。
「……つーか、三日で終わらなかったな」
もはや、口を動かすのも億劫と言わんばかりにサトーはリーゼに言う。
対するリーゼもまた、彼女らしくなく疲労に苛まれているようだった。
いつも不機嫌な表情は更に悪化し、どこかで誰か仕留めたのかと疑いたくなるような目つきをしている。
「てか、途中からやたら強くなかったか?初日なんて一撃で倒せてたのに、最後の方なんて数回起き上がってたしさ」
返事をしないリーゼに構うことなく、サトーは口を動かし続けた。
この依頼の間、三回ほど死んでいるため、体は割と限界に近かった。
それは精神的にどうこうできる問題ではなく、有り体に言うなら、ベットで横になりたくなる類のものだった。
例によって例のごとく、髪も見事の膨らんでおり、そういうお洒落と言われたらそう見えなくもない絶妙な長さになっている。
「それに、さっきからやたらシジマが引いてる荷車走ってるし。なんで俺ら歩きなの?いや確かに節約は大事だけどさ、こうなるくらいなら借りたほうが色々よかったよね」
荷物の配分も、サトーが盾のみ、その他をリーゼから、サトーが盾と荷物を半分、リーゼが荷物を半分と変わっていた。
これだとサトーの方が大荷物なのだけど、そのことに関して文句を言う度胸も元気もない。
ただ、こうして口が回りだすと、自然と文句を言う度胸も湧くから不思議な話である。
「つーか乗ってるのあれ冒険者だよな?しかも方向ナマク村じゃね?なんかあったのかな?仕事ねーかなー、いやその前に風呂入って寝たい。三日くらい。仕事はそれからでもいいよね?いいってことで」
「…………非常に騒がしいのですが、いい加減黙れませんか?」
猛獣が唸り声をあげたかのように、サトーの体が一気に縮みこんだ。
案の定、彼女の機嫌は悪い。
その要因を作った張本人がさながら天災かのように他人事に考える。
「確かに、この数は些か多いですが」
そうこう話している間にも、何台もの荷車が二人の横を走り抜けていく。
行き先はどれもナマク村の方向らしいが、出ていく荷車と遭遇しなかった。
「なんかあったとか?」
「さぁ。着けば分かることかと」
ナマク村の周囲は草原のため、見晴らしがかなりいい。
少し丘になっているとこまでいけば、かなりの範囲を見渡すことができる。
そうして二人が目撃したのは村に集まる大量の荷車と、人の姿だった。
あちこちにいる人は皆剣や弓といった武装をしているらしく、なんだか魔術師のような格好の人もいるように見える。
全身ローブ姿は田舎な雰囲気を保つナマク村では完全に浮いている。
「…………すげー人いない?」
「目だけはいいのですね」
「だけは余計だと思う」
二人は少しだけ歩く速度を速めた。
村の様子が些かおかしいのは視れば分かるし、この際疲れたとか言っている場合じゃないのは確かだった。
村にたどり着くと、村の中は活気に満ちていた。
あちこちで話し声が聞こえてくる様子は、さながら早朝の市場のようである。
「こりゃ凄いな。なんかあったのか?」
「支部へと急ぎましょう」
そう言い終えるよりも早く、リーゼが走り出す。
先ほどまでの疲れを微塵も感じさせない俊敏な動きは、流石と言うべきか判断に悩むところだった。
因みにサトーは走る元気はない。
よたよたと歩いて扉を開くと、リーゼがすぐ近くにいた。
そしてその横にいたのは。
「…………天使?」
シェルアがそこにいた。
髪の毛をアップサイドにまとめていて、サトーのよく知るメイド服に身を包んでいる。
短いスカートからは健康的な足が見えており、身に着けているメイド服はそこらへんのより遥かに似合っていた。
というかよく見たら髪型がいつもと違う。
姿はさながら働く女性、といった様子で、白く細い首が露わになっているのが実にいい。
なにより、同じくらい白く、細い腕もまた見事としか言うほかなかった。
作った人にハグしてお金渡したいくらいだ。お金ないけど。
「あの、えっと、お疲れ様です」
困った様子でシェルアがそう言ったおかげで、サトーはなんとか疲労からのトリップから戻ってくることができた。
疲れやその他もろもろから、どうもこう、頭が回っていない気がする。
「おう、ようやく戻ったか」
奥から支部長がそう声をかける。
白い髭はいつもより無造作に伸びており、顔に疲労が見える。
「ひとまず、依頼は完了です。事後処理をしたいのですが、どこで行えばよろしいでしょうか?」
リーゼがそう尋ねると、支部長が申し訳なさそうに首に手を当てた。
「そのことでなんだが、少し事情が変わってな。まぁとりあえずそこに腰かけてくれ」
三人は顔を見合わせると、支部長に言われるがままに椅子に腰かけるのだった。




