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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第3章 ナマク村

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24

 彼にとって、それは想定外のことだった。

 連日、いつもの場所に座り、いつもと変わらないものを頼む。

 話しかけてくる人はおらず、触れば壊れる陶器のように周囲の人は関わらないようにしてくれていた。


 そのことに感謝しつつも、どこか甘えているような気持になるが、だからといって特に何かあるわけでもない。

 杞憂なのだと割り切って座っていればすむ話だ。


 それが彼の日常。

 変わることは決してない、灰色の時間。


 に、なるはずだった。


「いらっしゃいませー!」


 透き通るような、綺麗な声が食堂に響いた。

 その声はどこか初々しく、それでいて真剣なのが伝わってくるようだった。

 連日訪れる村の人々はその声に癒され、その姿を見るためだけにここに訪れる人までいるほどだった。


 シェルア。


 この国の第六王女。

 真っすぐの綺麗な髪と、可愛らしい制服に身を包んだ少女を、まさかお姫様だと思う人はいないだろう。


 この国での認知度はそれほど低くないものの、まさか目の前にいるとは思わないはずだ。

 そもそも、王女様の顔を正確に記憶している人間の方が遥かに少ないだろう。


 そんな彼女は、高貴な育ちであることを微塵も感じさせないくらい一生懸命に働いていた。

 時にはミスをしたり、注文を聞き間違えたりすることもあるが、そんなミスを帳消しにするくらいに目まぐるしく働いている。


「…………」


 食堂の奥に居座っているシャグラにとって、彼女の存在は非常に不都合だった。

 彼女の目的は、間違いなく自分だ。


 なにせつい三日前に彼女を含めた一向に話しかけられたのだ。

 その際はどうにか誤魔化したが、それでも諦めていない。

 ここで働きながら、自分が起きて話ができるタイミングを伺おうとしているらしい。


 問題だったのは、彼女の働きっぷりだった。

 彼女は日中、ほとんど休むことなく動き続けているのだ。


 そのせいで、酒を頼むことができずにいる。

 注文くらいしても何も問題ないのだけど、それだと彼女と話す羽目になりかねない。

 他の人に頼んでもらおうにも、その優しさのせいでできずにいた。


(…………参ったなぁ)


 何も昼間ではなく、夜間に呑めま済む話なのだが、あまり気が進まなかった。

 気持ち的な問題だと自分ではそう思っているのだけど、どうしてもそれを体が理解できていないのだ。

 そのせいか、断酒が進んでしまい、本当に酔いが抜けてしまっている。


 元々酒はそこまで弱くない。

 酔うにしても、戦場下での宴会もあったからか、酔わないように体が覚えてしまったのだ。


 当時は無理やり呑ませてくる上官への対策として重宝していたものの、こうなってしまうと、あまりに不要な体質であった。


(…………しっかし、よく働くねぇ)


 腕を枕にして机に伏せた状態で、気づかれないようそっと顔を上げる。

 彼女は文字通り粉骨砕身の働きぶりだった。


 よく周りをみて、できることをきちんと拾ってこなす。

 組織において重要な要素を、彼女はちゃんとできていた。


 全くの社会経験のない彼女が、それをさも当然のようにできているのは、間違いなく生まれついての素養だろう。

 しかし、それら全てが今の彼にとっては邪魔以外の何物でもなかった。


(ま、今は大人しくしておこうかな…………夜になれば、またいなくなるだろうしね…………)


 そういって彼はまた眠りへとついた。

 夜寝付けなければ酒を呑もう。


 できないのに、当然のようにそれを選んだ彼の意識は、騒がしい喧騒の中に溶けるように存在を薄めていく。


 ──────故郷へ帰った後のことは、実は殆ど覚えていない。

 しでかしたことも、後で他人から聞かされたものだ。

 親友がそのために尽力し、なおかつ騎士を辞めたこともその時聞いた。


 死にたかった。

 誰に何もされることなく、ただ朽ちるように死にたかった。


 だけど、その寸前に思い出すのだ。

 彼女の顔を。

 自分の身を案じてくれた、その穏やかな笑みを。


「…………」


 そうなってしまえば、自然と体は止まる。

 変わるように、涙だけが溢れた。

 泣いても泣いても、痛みは消えない。

 死にたくても死ねず、生きたいとは微塵も思えない。


 抜け殻のように彷徨い、摩耗した姿で親友に命を救われた。


「いいから、休め。当面の生活費はなんとかしてやる」


 ぶっきらぼうにそう言い捨てた親友は、滅多なことがない限り話しかけてこなかった。

 なんでも冒険者に転職したらしく、そこでの活躍を変われて支部の長に任命されたらしい。


 確かに親友なら向いているだろう。

 そう思うほどに、緋色の光を見る機会が増えていた。


「…………情けないねぇ」


 何もしていない体は疲れず、覚醒した頭が鎮静する気配もない。

 気が付けば、右手に拳が握られていた。


 それを振りかざす相手も、諫める相手もどこにもいない。

 そうして解かれた右手は、力なく机の上に置かれているのだった。

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