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食事も終わりに差し掛かったころ、おもむろにサトーが口を開いた。
「…………そういやさ、シェルアのことで、聞きたいことがあるんだけど」
リーゼはぴたりと動きを止めると、真っすぐサトーの瞳を見つめる。
それだけで、とても重要なことを話すのだとサトーは瞬時に理解できた。
「少しだけ、早いような気もしますが構わないでしょう。いずれにせよ、こういった機会がなければ話すこともないでしょうから」
ゆっくりと、リーゼが話を始める。
「彼女、シェルア様の権能は『宝石』の権能と言われています。大小様々な宝石を自在に出現させ、操作することができるものです」
「…………あれ?でも権能って、シェルアは魔術が使えるよな?」
「はい。彼女の瞳は代々王家に引き継がれた特殊な物で、通称を『夜空の魔瞳』と言われています」
「夜空の、魔眼…………」
急にかっこいい単語が並びだしたが、少なくとも興奮している場合ではないことだけ間違いなさそうだった。
「この夜空の魔眼には膨大な魔力が蓄えられています。その魔力を用いることで、権能を持っている者でも魔術を扱うことができるのです」
「てか、あっさりと受け入れちゃったけど、魔眼って何?」
そういうものだとすんなり聞き流していたが、よく考えたらこの世界では一度も聞いたことがない代物だった。
魔、という単語がつくのだから、少なくとも魔術絡みだと推測できる。
「魔眼とは魔力を有する瞳の通称です。数は権能よりも遥かに少なく、魔術が生み出されるよりもずっと前からあったとされています。また、そういった魔眼によって生じる事象を『魔法』と扱われています」
魔法、いよいよよってファンタジー寄りの世界観になってきた。
そもそも、魔獣だの魔術だとある時点で充分ファンタジーだけど。
「魔術と魔法、そして権能。この三つの関係は非常に難しのですが、あなたの『不死』の権能のように、権能は視覚化できないものが多い特徴があります。それを模倣、似たものを生み出すのは非常に困難であった。なぜなら普通の才覚と差別化できなかったからです。そこで目に特徴が現れる権能に着目した、とされています」
風を操ったり、炎を出したりできる権能は見た目だけで分かりやすく、普通の人ではまず再現できない。
ただ、料理が上手かったり、怪力だったり、学習能力が高い、といった目に見えない部分での才覚は本人の才能なのか権能なのか見当がつけにくい。
そうであるかもしれないし、その逆も十分にあり得る。
確かにシェルアの瞳を見れば、あれほど分かりやすく、例の事象と結びつけることができるだろう。
少なくとも自分の不死の権能よりはよほど分かりやすい。
「権能を行使すると、目に特徴な印が出る。これらの関係性を研究した結果、目に独自のエネルギーがあることが分かり、それは権能のないものでも有していると分かった。そこでそれを外に出力し、コントロールしようと試みた。その結果できたのが魔術、とされています」
「つまりは、権能と似たことをしようとしたけど、パッと見ではよく分からないから研究もできなくて。だから目に明確な証拠がある権能を分析して魔術を作った。そんで、参考にした権能を魔法って呼ぶことにしたのか」
「そうなります。魔術は魔法の真似事。したがって魔法が使える者は魔術を使えますが、その逆はできない、ということです」
多分体の一部に現れる、って部分が権能と魔法の違いで間違っていないだろう。
そうなってくると、ますますシェルアの立場の危うさがよく分かる。
なにせ権能を使うだけで、どういった物かすぐに分かるのだ。
見た目や名前を知らなくても、その目を見れば分かるという人間だっていてもおかしくない。
「『宝石』の権能はとある王家に伝わる秘伝の権能。『夜空の魔眼』は『宝石』の権能を持つ者に宿るとされており、その権能が顕現した際に魔眼も開くとされています。お嬢様が権能を持っておられるのに対し、魔術が使えるのはそれが理由です」
「なるほどな…………そりゃ命狙われるのも納得がいくな。てか、それって有名なの?」
少なくとも、権能と魔術の関係性を知っていれば誰でも分かりえる内容に聞こえた。
リーゼは「そうですね」と言うと。
「魔術師の間であれば、一般常識として扱われるほどに有名になった。というのが正しい表現ですね」
「…………なった?」
「はい。これを説明するには魔石と呼ばれる存在について話す必要があります」
サトーの問いに、リーゼは言葉を続けるのだった。




