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「あっつ…………」
思わずそう呟いた後、サトーは自身の軽率さに後悔した。
魔獣討伐初日、日が暮れたために近くの空き地で野営を行っていた。
テントや食事の準備はリーゼが殆どやってしまったため、サトーが出張る隙はどこにもなかった。
一応は食事の準備もやったが、それでもリーゼの手際の良さにまるでついていくことができなかった。
そうして用意された食事を口にした瞬間、不本意にも二人の間に流れていた沈黙を破ってしまったのだ。
「やはり、あなたには情緒はないようですね」
ばっさりと言い切るリーゼに対し、サトーはただ項垂れるしかなかった。
なにせ、さっきまで火にかけられていた汁物を、全く冷ますことなく口に運んだのだから、熱いに決まってる。
熱いのが平気ならともかく、サトーの触角は普通の人より少しだけ鋭いと本人は自覚していた。
「…………ま、まぁ、どっちにせよ、このまま黙ってるのはしんどいし」
無理に軽い口調で取り繕うも、リーゼは全くこちらを見ようとしなかった。
多分、温度を間違えてるなと考えたサトーは、一度咳ばらいをすると話を変える。
「そういうことだと、あの人を仲間にするのは難しいかもな」
シャグラという人物の話は、壮絶というほかなかった。
大切な人を失い、戦犯として誹られ、居場所を失ってしまった。
そのどれもが、一つずつ訪れても乗り越えるのが困難なことなのに、それが一気に押し寄せたのだ。
その時味わった痛みは想像するよりずっと辛いはじだ。
そしてそれは、大切な人がいるサトーにとっても同じだった。
もし何かしらの理由でシェルアを、リーゼを失ったら。
果たして俺はこの世界で生きていけるのだろうか。
何もかも投げ出さず、仕方ないと割り切って生きていくことができるだろうか。
「少なくとも、彼はまだ悲しみの中にいるのは間違いないと思います」
リーゼはそう言うと、一度そこで言葉を区切った。
どこか言いずらそうにしながらも、リーゼはその続きの言葉を述べる。
「ですが、あのままでは彼はあのままです。どちらにせよ、結果はあまり変わらないというのが私個人の考えです」
「どちらにせよ?」
「悲しみ続けるか、その悲しみを乗り越えるか。選ぶ道はどちらかでしょう。そのどちらを選んでも、彼にとっては辛く困難な道のりであることには変わりません。なにより、選ぶのは彼自身です。私たちがどうこう言うべきことではないのかもしれません」
ですが、とリーゼは一言置いた。
「あなたがお嬢様に伝えたことを私は知りませんが、それとこれは同じことだと思います。そのうえで、私はあなたに話したつもりです」
それがどういう意味を持っているのか、サトーは理解するのに数秒かかった。
それを理解した後、サトーは頭を掻きながら口を開く。
「…………仲間になってほしいのが本音。でも、無理強いはしたくない」
彼とは話したことがない。
なにより、あの場で会っただけの彼に、縁もゆかりも、積み重ねの一つもない。
だけど、そういった経緯や、彼のことを話す人々の事を思い浮かべると、少なくとも悪い人ではないのだと思う。
これまで会ったことのある人たちと同じで、普通のいい人で間違いない。
間違いなく、背中を任せるに値する人だろう。
「だから、まずは話をして、それでもしダメなら諦めよう。何度も説得して、こう、無理やり仲間になってもらうのは違う気がする」
それが本心であることを、リーゼは理解できていた。
だから。
「分かりました。それで私は構いません」
一言も反論もなく、その全てを肯定した。
それが主との約束であったとしても、彼女自身の意思と相違がなかったのが本当の理由だった。
「それにしても、なんかリーゼってちょいちょい優しいよな」
「私は常に優しいですが?」
「えっ…………」
ぎろりと睨まれ、思わず目を逸らした。
その様子が不服なのか、もしくは発言に納得がいってないのか、ふんと鼻を鳴らすとリーゼは手に持っていた食事に口をつける。
二人は黙々と食事を食べ続けた。
燃える薪の音が静かな草原に溶けるような、そんな優しい沈黙だった。




