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──────二人が正式に婚約することになったのは、それからしばらくしてからのことだった。
元々、二人とも騎士団の中で重要な役目を担っている存在だったのに加えて、青年に関しては実質的なトップである騎士団長補佐、という立場に推薦されたばかり。
そこに加えて、長く続いた戦争の終わりがようやく見え始めたころだった。
かつて絶えることのなかった火薬と鉄の匂いは殆どしなくなり。
青年に新たな家族が宿ったという知らせが届いたころに、周囲にそのことを知らせた。
全ては順調そのもの。
一大カップルの誕生に、騎士団は大きく湧くことになった。
「それじゃ、もうそろそろなのか」
そんなことは露知らず。
その日もまた、前線の引継ぎをしに来た友人と他愛もない会話をしていた。
ここ数年、友人とその幼馴染の、子供のころから全く進展しない関係を半ば強引に推し進め、見事に目的を成し遂げた彼は、騎士団の中でその腕前が高く評価されていた。
それが果たして騎士として誇るべきことなのかは分からないが、彼自身はそれなりに満足しているらしい。
「そうみたい。妊婦だってのに落ち着きがなくて困ってるってさ」
青年はこの数年で騎士団長補佐にまで出世していた。
人の成長は緩やかな曲線ではなく、階段のようにある人突然急激に上昇する。
大切な人ができた、という新たな要素は彼を更に成長させていた。
風格も増し、佇まいにも重厚なオーラを纏っている。
また、一つの部隊を指揮するのではなく、全体の管理や指揮を担当することが増えた。
それは前線で戦うのではなく、王都での雑務や、各地への遠征といった様々な業務をこなすことが増え始めていた。
「しっかし、お前がまさか父親になるとはなぁ」
しみじみとした様子で友人が言う。
ここまでの彼の体たらくを見てきたのだから、当然と言えば当然の反応である。
一方の青年もまた、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「正直、実感はないんだけどな。俺に子供ができるなんて夢みたいだ」
「てか、アイツが母親ってのがまるで想像できないけどな。今でも訓練でボコボコにされたのを思い出すよ」
「お前、いっつも叩きのめされてたからなぁ」
「ったく、一度も勝てないまま引退しやがって。これじゃ一生負けっぱなしじゃねぇか」
青年の彼女、今の奥さんは自身に新たな命が宿ったと知った直後に騎士団を退団しており。
現在は二人の故郷で生活をしている。
一方青年は基本的に王都で生活しており、休日になったら会いに行くという生活をしていた。
彼女は最初王都に残ると言っていたが、もしものことを考えると故郷の方が手を貸してくれる人が多いところがいいと考えたのだ。
なにより、王都は賑やかなところで、子育てをするのには少々向いていなかった。
「それで、いつ会いに行くんだ?」
「明日には。夜の間に移動して、明け方に着く予定だな」
「そうか。それなら無駄話をしている場合じゃなかったな」
友人はそう言って立ち上がると、何かを思い出したのかポケットの中を漁りだした。
「?どうした?」
「いや、確かここに…………っと。ほら、やるよ」
そういって渡されたのは小さな木の箱だった。
梱包もされていない簡素な箱は、適当な紐で結んで封がしてある状態だった。
とりあえず中身を開けてみると、そこにあったのは木でできたおもちゃのようだった。
「なにこれ?おもちゃか?」
「子供が安全に遊べるようにできてるやつでな、よく分からなくて適当に選んだんだ。あとでちゃんとしたものをやるから、とりあえずそれで勘弁してくれ」
「へぇ、いいじゃんこれ」
多分それなりに高級なモノだろう。
木目は滑らかで、仕掛けも簡単なものだが怪我をするような箇所がどこにもなかった。
なにより、簡素と言った木箱には高級そうな刻印がしてある。
「独り身だとよく分からなくてな、それに相手が男か女かも知らないことに気付かなくて。だけど何も送らないのもなんか違うだろ?だからま、それで勘弁してくれ」
友人にしては早口で、どこか焦っている様子だったが、青年からしてみれば充分な贈り物だった。
子供に必要なものは自身の両親や親族が張り切って揃えた、と聞かされているので、正直必要なものはそれほどないし、こういうのはどんなものであれ嬉しい。
「ありがとな、色々と」
「…………うっせぇよ。さっさと行けっての」
目を見てそう言うと、友人は顔を赤くしながらそう悪態をついた。




