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「作戦を練りましょう」
リーゼの発言に二人は頷いた。
支部を後にした三人は、近くにあったテーブル付きのベンチに腰掛けていた。
サトーに向かい合う形でリーゼが座り、その隣にシェルアが座っている。
「あの様子では会話が不可能です。とりあえずは酔いが比較的冷めている時間を把握するのが先決かと」
「そうですね。あの調子だと覚えてるかどうかも分からないですし…………」
ごく自然に振舞う二人だが、少しだけ驚嘆の色があるように思えた。
それほど驚いていなかった、ということは少なからずああいった状態ではあったことを知っていたということになる。
だとしても、まさかあそこまで荒んでいるとは思ってもいなかったのだろう。
「なら、交代で見張るとか?」
「それなら、私が協力します」
声が聞こえ、その方向を見ると先ほど受付にいた女性がそこにいた。
制服姿なので恐らく仕事の休憩か、こっそり抜け出してきたのだろうか。
横にずれると、空いたスペースに腰掛けた。
「シャグラさんはあそこでは有名で、いつもあの席で呑まれています。ですので見張るのは任せてください」
「…………確かに助かりますが、あなたに何かメリットがあるのですか?」
リーゼに聞かれ、その女性はスカートの裾をぎゅっと握った。
「…………小さい頃、盗賊に襲われたことがあって、その時に助けてもらったんです。あの人はまるで覚えていないんですけど、それでも、その恩を返したいんです」
当時、騎士団の団長補佐をしていたシャグラは、様々な雑務や遠征を行っていたらしく、この女性はその際に助けてもらったらしい。
「なにより、今のシャグラさんはあまりに痛々しくて見てられないんです。あなたたちがどうして彼に用があるのか分かりませんが、それでも、立ち直れるきっかけになるのなら力を貸したいんです」
「助けることには助けるけど、でも用事があるだけでそんな…………」
「ザハさんの名前が出てきたってことは、それなりに信頼できる相手だと考えたんです。そんなあなたたちの用事であれば、悪い方向にはいかないと思うんです」
ここにきてもザハの名前が出てくることに驚きつつも、サトーはリーゼとシェルアの顔を確認し、お互いに意志を確認する。
「分かった。それならこっちからお願いします」
「…………!ありがとうございます!」
女性は自らをライナと名乗った。
四人はお互いの簡単な自己紹介と、シャグラへの用事を説明した。
「なるほど…………そういうことでしたら正式に協力させていただきます」
「ありがとう、めっちゃ助かります」
サトーが深々とお辞儀をすると、ライナもはにかみながらお辞儀をした。
そんなわけで、ライナを含めた四人は現状の確認と今後の行動について話し合うことにした。
「ひとまずは、シャグラさんを見張りつつ、隙を見つけてきちんと話を聞いてもらう。それと同時に支部長からの依頼をこなす、ということでいいですか?」
ライナが受付の仕事をいかんなく発揮しながら、リーゼらが話した状況を整理した。
「それなんだけど、魔獣ってどれくらい強いか知ってます?」
「C級冒険者が数人いれば安全に倒せる程度だと聞かされています。ザハさんに依頼した主な理由としてはスポットの活性化の調査も兼ねていたからだとか」
「活性化?」
サトーが尋ねると、ライナが話を続けた。
「ここ最近魔獣の発生数が増加していて、そのせいで魔獣の被害が出ている。先ほどの話でもした通りなのですが、その要因がどうもスポットからの魔獣の生成周期が短くなっているからだと判断されたのです」
「根拠は?」
リーゼの問いに、ライナがこう答える。
「魔獣の体長は時間を経て大きくなります。ですが、最近見られる魔獣は以前のものより小さく、凶暴なのです。中には戦った痕跡のある魔獣もいるとか」
「なるほど。つまりは発生するペースと本来の魔獣の生息域のバランスが乱れている。そのためスポットになにかしらの変化があった、ということですか?」
「こちらではそう判断しています」
リーゼはその話を聞くと、一人思案するかのように自身の顎に触れた。
その間、シェルアとライナがシャグラのことについて話していると、おもむろにリーゼが口を開いた。
「では、こうしましょう。私とサトーで魔獣の討伐、ライナ様とお嬢様の二人は支部でのシャグラ様の監視で」
「いっ!?」
「え、二人で行くの?」
サトーは思わず驚きの声を上げ、シェルアがそう尋ねる。
「はっきり言って私一人でも平気ですが、この男がここにいても役に立ちませんので。それに、監視する人は一人よりは二人の方がよろしいかと」
「それは、確かにそうですけど。でも、本当に平気なんですか?確かにリーゼさんはお強いことは分かりますが、一人での魔獣の討伐は危険ですよ?」
勘定に入ってないのかよ、と内心突っ込むも、リーゼは何食わぬ顔で。
「こんな男でも、いないよりは役立ちます。最悪、囮にでもなってもらいますので問題ありません」
「もうちょい言い方あるだろ…………」
抗議の声を上げてもリーゼは素知らぬふりをしている。
そんな様子を見ながらライナは困った表情を浮かべ、シェルアもまた苦笑している。
どうやらここにはサトーの味方はいないらしい。
「では、決まり、ということでよろしいでしょうか?」
採決、と言っても文句を言ってるのはサトーだけという扱いらしく、虫を睨みつけるかのようにリーゼがこちらを見つめている。
そんな冷たい目で見られて喜ぶほど性癖は歪んでいない。
「…………ま、役に立たないのは本当だろうし、それでいいよ」
渋々そう言うと、リーゼはライナと共に迅速に日程の確認を始める。
ため息をつきながら頭を掻くサトーを、シェルアはじっと見つめるのだった。




