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「ったく、ザハの野郎の頼みだから聞いてやったが、まだひよっこじゃねぇか」
サトーの予感は、見事に的中した。
開口一番、皮肉をぶつけられ、三人は一瞬動きが止まった。
すると後ろに控えていた女性が口を挟む。
「ちょっと支部長!その言い方はよくないですよ!」
「あ?事実なんだからしょうがねぇだろ」
「第一、彼らは依頼を引き受けてこちらに来ているんです!であれば最低限の敬意をもって接するべきでしょう!?」
「…………はぁ。じゃ、話を進めるぞ」
見るからに感じの悪い人物ではあるが、ひとまず三人は近くの椅子を持ってきて座ることにした。
シェルアはどこか緊張している様子で、リーゼは正直、見る気にはなれない。
「依頼は簡単だ。近くにある『スポット』の間引き、それだけだ」
スポット、という単語にまるで聞き覚えのないサトーは、思わず横にいるシェルアの方を見る。
「…………スポットは魔獣が発生する穴、みたいなもので、一定周期で魔獣が発生するの」
「なんだ?そんなのも知らねぇのか」
呆れた様子の支部長は、ため息をつきながらも話を続けた。
「そこにいるお嬢ちゃんの言う通りで、魔獣ってのは一定の周期で数が増える。魔獣はそれぞれが己のテリトリーってのを持っていて、そこに入るものを攻撃する性質を有してるんだが」
支部長は近くにあった紙と羽ペンを取ると、いくつかの点とそれを囲うような円を描いた。
「スポットってのは魔獣が生まれる地点で、魔獣は生まれた瞬間にテリトリーを所有するんだ。で、他の動物と違って、互いのテリトリーを浸食することなく、外へ外へと広がっていく。そうすると、魔獣の数は無限に増えて、生息域も広がるってわけだ」
「場所っていうよりは、一定の範囲をテリトリーにしてるってことか…………」
「そういうことだ」
いくつも描かれた円の、その最も外側にあるものをペンの先で示すと。
「お前らに頼みたいのはこの外側にいる魔獣の討伐だ。近年は発生するペースが上がっているのか、魔獣による被害件数も増加している」
「あの、これって魔獣のスポットこと壊すのって無しなんですか?」
そもそも魔獣は生態系から外れている存在にしか見えない。
なにより、明確な発生源があるなら、それを塞ぐなり壊すなりしたほうが長い目で見ればいい結果になるはずだ。
だが、支部長はこちらをじろりと睨みつける。
「魔獣ってのは無作為に動物を襲わない。襲うのは自分に害を与える肉食の動物だけで、それも敵意を持ってなかったら手を出さない。お前の言う通りスポットを壊せば魔獣が発生しなくなって、確かに被害は減るが、そのぶん他の肉食動物の数が増える。肉食動物の数が増えればそいつらが食べる動物の数は激減して、最終的にその地域一帯の生態系が乱れるんだよ」
だからな、と一つ区切りをつけると。
「自然には自然のバランスがある。それを整えたり、あまつさえ変えようなんて考えるなんてのは烏滸がましいんだよ」
口ぶりこそ変わらないものの、支部長の目には明確な怒りが見て取れた。
サトーが「すいませんでした」と言うと、支部長は鼻を鳴らして話を変えた。
「スポット一帯の地図と魔獣のおおまかな位置を記した地図を渡しておく。期間はそうだな、一週間もあれば余裕だろ。他に分からんことがあれば後ろにいるこいつに聞いてくれ。以上だ」
まるで面倒ごとを押し付けるように、最後は早口でそう言い終えた。
これ以上は話したくないと言わんばかりの仕草に、サトーはどこか居づらさを感じる。
「あの、一つだけお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そう口を開いたのは、シェルアだった。
支部長は眉を僅かに動かすと、無言のまま彼女を睨みつける。
「この依頼で出現する魔獣は、どれくらいの危険度なのでしょうか?わざわざザハさんに頼んだ、ということは、それ相応の危険が潜んでいるように思えるんですが…………」
シェルアの問いは至極真っ当なものだった。
何度でも言うが、サトーらは駆け出しの冒険者。
経験なんてまるでないし、なによりこれが初めての依頼だ。
ザハがB級の冒険者だということを踏まえると、三人でこなせるのか不安になる。
「…………なるほどな」
すると支部長は何故か、一度納得したような相槌をした。
思わず首を傾げるシェルアに、支部長はこう答える。
「程度は小型。狼に近い習性を持ってるが、細かな連携はとらないタイプだ。エルフィン王国でならよく見かける種類だと思ってくれていい。山岳地帯にいる種類より、知能はずっと低い」
「そう、ですか」
「ついでに答えとくと、ザハを指名したのは、あいつから文書を送りつけてきたからだ。程よく戦えて、あの街から離れられる依頼をよこせってな。難易度だけ見れば、駆け出しの冒険者でも問題ない」
どこまで行ってもザハらしい話だが、そうと聞けば少しばかり安心できる。
ふと横を見ると、シェルアと目が合った。
どうやら同じことを想像していたらしい。
「分かりました。であれば、謹んでお受けいたします」
「…………はいよ」
シェルアの丁寧な礼に対し、支部長はどこかやりずらそうにそう返事をするのだった。




