1
──────むかしむかし、とある村に一人の少女がいました。
燃えるような赤い髪に、頬にあるそばかす。
そしてなにより男顔負けの明るさと活発さから、周囲の大人を困らせ。
近しい年の子供から「赤い悪魔」だと恐れらていました。
そんな少女の暮らす家のすぐ近くに、一人の少年がいました。
少年は、心優しく穏やかな性格をしており、その美しい茶色の髪はいつでもサラサラと風でなびいていました。
少年と少女はとても仲が良く、いつしか同じ夢を抱くようになりました。
騎士。
それはこの国を守護する存在であり、大衆にとっては憧れの存在でした。
なにより、当時の騎士団長が身分を問わず人を集めていると有名であったことから、二人は王都で騎士になることを夢見るようになります。
当時の騎士は身分の高い家の者しかなれることができず、そういった背景もあって騎士団に入るのは非常に困難でした。
ですので、二人は昼夜を問わず剣の訓練をし、勉学に勤しみ、礼節を学びました。
それは微笑ましい光景でもあり、同時に嘲笑の的でもありました。
なにせ二人の住む村は辺境の地にあり、過去に騎士になった者は一人としていませんでした。
だが、二人は諦めませんでした。
来る日も来る日も努力を重ね、幼いながらも周辺で噂になるほどまでに成長し。
晴れて二人は、憧れた騎士団に入ることができたのです。
「はーあ!やっと終わった」
それは騎士団への入団式の後、自室へと戻る際のことだった。
赤い髪を一つにまとめ、三つ編みにした少女が大きく背伸びをする。
「ちょっと、誰かに見られたらどうするのさ?」
隣を歩く男性がそう制止する。
茶色の髪を短く切りそろえた姿は、どこかあどけなさを残しつつも精悍さに満ちていた。
「大丈夫でしょ。こんぐらいで怒られたらやってられないわ」
んん、と胸を張り息を吐くと、肩が凝ったのかぐりんぐりんと腕を回し始めた。
どうやら支給された制服が落ち着かないらしく、着始めてからずっとこうやって動きを確かめている。
二人は訓練生として、この騎士団に入団した。
これからは訓練漬けの日々になる。
気の休まる暇もないほどに過酷な環境だが、二人にとっては願ってもない場所だった。
「相変わらずだね、君は」
「そういうアンタは真面目すぎじゃない?きっちり襟元まで止めてさ」
「そりゃそういうものだからね」
「つまらないの」
「酷いな」
そう言うと、お互いに声を出して笑いあった。
ひとしきり笑い終えると、ポツリと青年が口を開いた。
「そういえば、選ばれなかったね」
選ばれない、というのは聖剣に、ということだ。
毎年、入団する全員が聖剣に触れ、その適性があるのか確かめる儀式を行っている。
適性があれば即騎士団長になることができるため、一世一代の大勝負となるのだ。
しかし、結果は今年も該当者なし。
そもそも、選ばれる可能性は殆どないらしく、ここ数十年誰一人として該当者はいないらしい。
そのため、現在の騎士団長はやや高齢となり、少なからず危機感を抱いているらしい。
一介の訓練生である二人はそんな事情は知る由もなく。
なにやら思案している様子だった少女は、おもむろに口を開くと。
「やっぱり、私の実力は聖剣ですら計れないようね」
しばらくの沈黙の後、青年が心底あきれた様子でこう突っ込む。
「相変わらず、君は前向きだね」
「そりゃそうでしょ。アンタがいっつも暗いんだから」
「そうだった、ありがとうね」
「いいえお互いさまです」
他愛もない会話をしながらも、二人は廊下を歩き続けた。
今日の予定は何もなく、本格的な訓練は明日からとなっている。
時刻はまだ正午にもなっていないため、一日が終わるのを待っているには少し長すぎる。
「さて、と。この後稽古しない?」
「いいけど、場所は?」
「さぁ。それもこれから探すのよ」
ここに来てまだ数時間も経過していない。
周囲の建物の配置も知らず、そもそもそんな場所があるのか分からないのに、少女はあたかも用意しているかのような口ぶりで誘ってくる。
そんな風に振舞える彼女が、ほんの少しだけ羨ましかった。
「それに、聖剣になんて頼ってたら一生上には行けないもの」
ぽつりと、呟いた少女の言葉は、青年にも自分にも向けられた言葉だった。
ひどく真剣な表情の少女を見て青年は思い出す。
騎士の殆どが男であり、女の騎士は数えるどころかいないに等しいことを。
「…………そうだね、お互い頑張らないと」
ポンと背中を叩くと、少女が青年の顔を見上げた。
不意に見降ろされたのが嫌だったのか、少女は口を尖らせ顔をそむける。
考えていることが顔に出てしまうところは昔から変わっていない。
「…………言っとくけど、これからライバルだからね!どっちが先に上に行けるか、競走だよ」
少女は数歩先へと駆け出し、振り返ると拳を突き出した。
青年もまた、ふっと微笑むと、近づき拳を合わせる。
「きっと必ず、騎士団長になろう」
「もちろん!」
そういってはにかむ少女は、さながら一輪の花のように輝いていて。
これが夢であると、知ってしまうのだった。




