ex.3
第2章は完結です。
第3章は1/29(土)、21時に更新します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
感想、レビュー、ブクマ、評価など、お待ちしております。
「では、さっそく案内を」
「おう」
ザハがメツバと話そうとした直後。
「ちょっとーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ザハの体が、宙を舞った。
より正確にいうなら、何者に吹き飛ばされた。
「うわー…………」
「アイツ、どこにいってたんだ?」
「なんでも、アレを買い直すって真っ先に出ていきましたよ」
大きく肌を露出させた女性が肩で息をしながら仁王立ちしている様を見て、ニヤハとキツバがそんな言葉を交わす。
豪快な音を立ててギルドの奥に突っ込むザハを見て、メツバは一人ため息を吐いていた。
「ちょっとザハ!アンタあそこにあった盾、どうしたの!?聞いたらアンタが譲ったって聞いたんだけど!?」
「ってて、いきなりドロップキックかます奴がどこにいるんだよ…………」
「そんなことはどうでもいいの!いい?あれは私がA級昇格を決めた貴重な貴重なA級遺物だったのよ!それをどうして譲ったの!?相手は誰!」
胸倉をつかみ、先ほどニハヤとは比べ物にならないほどの速度で首を揺さぶられるザハ。
これだけ色々されているのに、当の本人は傷一つ負っていない。
それをいいことに、彼女はぬいぐるみのようにザハを揺さぶりつづける。
「やー、ちょうど盾が必要な冒険者がいてな。そいつに譲った」
「だから譲ったのは知ってるっての!その相手を聞いてるんだけど!」
「少し落ち着け。アヤナ」
話が進まないと判断したのか、メツバが口を挟んだ。
アヤナ、と言われた人物は、三つ編みにまとめられた髪をびくりと揺らすと、恐る恐るその声の主の方を見た。
「お、お姉さま…………いつからこちらに?」
「つい先ほどな。それにしても、あまり成長をしてないように見えるが?」
「えッ!?いえいえ、そんなこと決してありませんことよ!?」
「えー、今回の進行でも単独で突っ込んでたじゃん」
「ちょっと黙ってろニャハぁ!」
怒鳴られキツバの背後に隠れるニヤハ。
そんな二人の様子を見てキツバは大きなため息をついた。
「まったく、少しは落ち着け。アヤナ、お前の得物は槌だろう。盾を使う機会はないはずだ」
「や、確かにそうですけど…………」
「それにだ。元々は酒屋で暴れまわった結果、修理費が払えなくなって売りに出したのはお前じゃないか。それをあたかもザハのせいにするのは感心しないな」
「ほう。それはまた、随分聞き覚えのある内容だな」
「うっ…………」
キツバの話す内容にメツバが反応する。
的となったアヤナはさながら蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。
元々、アヤナはメツバのチームに所属していたのだが、その好戦的な性格と酒乱のせいでチームを追い出され、修行と称されザハのチームに移籍したのだ。
アヤナとしては早くメツバのチームに戻りたいのだが、酒乱を直すことと、大量の借金を返済するまでは帰還してはいけないと言われ、現在もザハのチームにいる。
「ま、『ワルキューレ』の一人が暴行借金だらけってのはまずいわな」
押し倒されていたザハがゆったりと起き上がった。その発言にアヤナはまたびくりと体を大きく揺らす。
『闇夜の牛』
ダンジョン『奈落の月』を管理するギルドで、大きな特徴は他のギルドでの逮捕権を有していること。
これはダンジョンの立地と特徴に理由があり、他のギルドとはそもそもの存在理由が異なる特殊だからである。
そのため、『闇夜の牛』に所属する冒険者の全員が他ギルドの治安維持や罪人の処罰を担当している。
『ワルキューレ』は『闇夜の牛』最大のギルドで、この逮捕権を独占、行使しているチームだ。
そのため、その構成員の一人に汚点があるのは組織上あまりよくない。
また、構成員は全員女性である。
「ま、とりあえず盾の件はすまん。一応断りを入れるべきだったな」
「それはそうですけど、その、すいませんでした…………」
「ま、嫌って言われても渡してたけど」
「どういう意味よ!それ!」
「あーもう、お前らうるさい」
キツバがはっきりと言い切ると、アヤナはぴたりと口を止めた。
『フェンリル』の副隊長を務めるキツバに、アヤナは全く頭が上がらないでいる。
理由は移籍初日に喧嘩をふっかけ、ボロカスに叩きのめされたからなのと。
キツバにしかできない、とある行為がアヤナの最大の天敵だからだ。
「それで、今後はどうしますか?」
「んー、とりあえず『フェンリル』は休止。『連れなる社』もしばらく閉鎖するだろうしな。各自小さな依頼であれば好きに受けて構わないが、できるだけここにいるようにしてくれ」
「なにかあるんですか?」
ニヤハがそう尋ねると、ザハは心底面倒そうに頭を掻く。
「ちょいと頼まれごとがあってな。当面は平気そうだが、いつ機会が来るか分からんそうだ」
「相変わらずですね、隊長…………」
「うっせーぞ、ニャハ」
実際のところ、サトーらに力を貸したのは別に珍しいことではなく、ザハはしょっちゅう身分を偽って人助けをしている。
そのため冒険者として稼いだお金の殆どをそういった方面に消費しており、中には明確に困っていない相手にも惜しまなく力を貸すのだ。
結果、常に金欠であり、チームの全員に借金があるという状況に置かれていた。
S級冒険者となれば依頼一つで莫大な報酬金を受け取ることができる。
その待遇でこれなので、もはや誰も咎めることをしなくなっているのだ。
「ん、んん!とりあえず、話をまとめていいか?」
ザハは大きく咳ばらいをすると、全員に号令を出す。
「迷惑をかけるが、みんなよろしく頼む!事が済んだら宴を用意すっから!」
チームの全員が「応っ!」と答える。
ここにいる誰もがザハの人となりを知っており、そのうえで彼に付き従っている。
それこそが、彼が八傑に名前を連ねる最大の理由である。
「流石、ですね」
メツバが声をかけると、ザハは肩をすくませた。
「アンタのとこも大概だろ」
「我々とあなたのチームでは理由が異なりますので」
「そんなことねーと思うが…………つか、口調おかしくないか?」
「…………少し前に故郷に帰ったんだ」
「…………それは、悪かったな」
ザハとメツバは同じ方向に歩き出す。
物語は、緩やかに動き出す。
それをサトーらが知るのは、まだ先のことだった。




