ex.2
「お久しぶりです。隊長」
挨拶をした途端、周囲を囲んでいた連中が喜びの声を上げた。
中にはザハに抱き着いたり、頭を撫でまわしたりする奴もおり、その勢いにザハはなすすべもなくそれを受け入れている。
「…………っててて、些か乱暴すぎないか?」
「いつものことだろ。それで、例の用事は済んだのか?」
「あー、そっちは終わったんだが、ちょいと別件が発生してな。今度はそっちを解決しないといけなそうだ」
「そうか」
すると、人ごみの中から殆ど泣いた状態の青年が顔を出した。
全身を覆う球体をくっつけたかのような服装に、特徴的なオレンジ色の癖毛はどこぞの熱帯植物のようにうねっている。
「お久しぶりです隊長!とりあえずこれを受け取ってください!」
「おうニャハか。元気そうで安心したぜ」
「元気じゃないですよ!こんな代物を押し付けれられた僕の身になってください!心配で心配で夜も眠れなかったんですよ!それに僕の名前はニヤハです!ニヤハ!」
「別に変わらないだろ。つか、わざわざつけてたのかそれ」
ガクンガクンと体を揺らされながら、ザハは彼の左の耳を指さした。
そこには水色の宝石でできたピアスがつけられているが、お世辞にも彼には似合ってない代物だった。
「だって外してどっかいったらどうするんですか!それに誰もかも、キツバさんすら嫌がるんですもん!スーがいたら変わってくれたのに!」
「流石にそれをつけて戦うのはな。それに、お前は後衛なんだし紛失する可能性は低いだろ」
キツバ、と呼ばれたリーダー格の女性は心底鬱陶しいそうにそう言い捨てた。
ニヤハは『フェンリル』に属する魔術師である。
魔術の腕は確かなのだが、ものすごいネガティブというか、悲観的発言が多く、更に一日中この調子で話し続ける騒々しい存在である。
今回の進行において、魔獣よりよほど鬱陶しい存在だったことを、ザハは何となく察した。
「ま、とりあえず受け取るわ。サンキュな」
「ほんとにもう、わざわざ身分隠して人助けする必要あるんですか?というか僕にメリットがないのでできるだけ早くやめてくださいお願いします」
口は動かしながら、ものすごい速度でピアスを外し、ポケットから冒険者の証を取り出しまとめて渡す。
ザハもまた懐から冒険者の証を取り出すとニヤハに渡した。
「はぁ。ようやく落ち着いた」
「ったく大げさなんだよテメェは。ちっとは堂々としてろっての」
「S級冒険者の証なんて僕には荷が重すぎます!B級くらいが僕の適性なので!」
「その発言、結構な数の冒険者を敵に回すけど大丈夫か?」
適当に突っ込みつつ、ザハは受け取ったピアスを耳につけた。
驚くほどなじむそれに触れていると、ギルド本部の入り口付近から、ザハに向けて声をかける人物がいた。
「相も変わらず、責任感のない人ですね、『一隻眼』のザハ」
その声に、ザハを囲んでいた冒険者が距離を取った。
ニヤハはキツバの背後に隠れ、キツバは緊張した表情でそれを見つめている。
「そういうアンタも相変わらずだな、『韋駄天』のメツバ」
メツバ、と呼ばれた人物は何食わぬ顔でザハに近づく。
やや青みがかった黒のスーツに白のシャツ、赤色のネクタイに黒の手袋をしている姿は偉い人の護衛のような容姿だった。
背丈はザハより低いものの、すらっとした体型と服装からか実際よりも背丈のあるように映る。
なにより、その威風堂々とした姿は周囲の人間を圧倒するのに十分だった。
「思ってたより早い到着だな。気球空挺はどうした?」
「あれで移動するより自力で移動する方が早いので」
「それでいいのかよ…………アイデンティティ失ってるぞ」
「別に速度を売りにしているわけではないからな。それで用とは?」
メツバがそう尋ねると、ザハは首筋に手を当て、こう告げた。
「『八傑』絡み、って言えば理解できるか?」
「なるほど。なら仕方ない」
八傑。
それはS級冒険者の中から選ばれた八人の冒険者の通称である。
元々は、次期ギルド長を現ギルド長が選別し、認定した人物とされており、それに選ばれるものはそれ相応の実力と実績を積む必要があるとされている。
選ばれるのには現ギルド長全員の同意が必要とされており、八傑に選ばれるということはそれだけで破格の地位と名誉が約束されている。
そして選ばれた彼らにはそれぞれ異名がつけられるのだ。
「…………ま、現在の八傑は殆どそういうのに興味がないが」
「ザハさんはまー、あれですからねー」
こっそりとキツバとニハヤが言葉を交わす。
ザハ。
現S級冒険者にして、S級冒険者チーム『フェンリル』の隊長。
そして八傑の一人であり、ついた異名は『一隻眼』。
その異名と、様々な実績のみが独り歩きした結果、駆け出しの冒険者では彼の外見を正しく知らないほどの有名人である。




