ex.1
ギルド『明星の狼』北部に位置する区画にザハの姿があった。
「さて、と。あいつらちゃんと合流できてっかな」
建物の屋根の上に胡坐をかきながら、ある一点を中心に視線を走らせる。
というのもザハは事前に、というか昨日、サトーらにあそこに行くよう手紙を書き受付嬢に渡したのだ。
「とはいえ、リーゼがどう思うか…………」
太ももに肘を置き、頬杖をつきながらそう呟く。
どうやら彼女は未だにザハのことを信頼していない様子だった。
確かに後ろめたいことはあるので仕方ないとはいえ、シェルアとサトーの温度差が凄かった。
「でもま、知ってる顔だし使うだろ」
正直に言えば、彼らについていきたいという気持ちはある。
数日、短い時間だったが、今どき珍しいくらい真っすぐな連中だった。
お互いがお互いを心のそこから信頼していて、裏切るという行為がそもそも頭の中にないとかいう奇跡みたいな存在。
彼らとならどこまでも冒険ができる。
とことん楽しく、ずっと笑いあえる冒険ができると思う。
それでも、ザハにはどうしてもやらないといけないことがあった。
「さて、と。そろそろ行きますか」
瞳の先には例の三人が見える。
どうやら無事合流できたらしい。
本来であればオレがこなす依頼だったのだが、多分オレが行くより彼らのほうが適していると考えた。
であれば、彼らだけでどうにかするだろう。
太陽の光に目を細めつつも、ザハは見送ることなくその場を後にする。
(…………よしよし、ギリ間に合ったか)
そうして向かったのは『連れなる社』第一層跡地だった。
そこには簡易テントがいくつか建てられ、朝だというのに多くの人が行き来している。
ザハはその中の一角に入ると、中で作業をしていた女性に声をかけた。
「よぉ。あいつらから連絡あったか?」
声に気付いた女性は、慌てた様子で書類を探し、ザハに差し出す。
「こちらがつい先日届いた書簡です。どうぞお受け取りください」
「おう。ありがとな」
カチコチに緊張している女性からそれを受け取ると、ザハはそれを一瞥しすぐに返した。
「あの、もうよろしいのですか?」
「あぁ。どうやら着いたらしい」
次の瞬間、ほんのわずかな地響きが周囲に響いた。
それは第二層に向かう階段のほうからで、地響きは徐々に大きなどよめきへと変わる。
「きた」
「来たぞ!」
「あの『フェンリル』が帰ってきた!」
どよめきはやがて歓声へと変わり、書類を整理していた女性も様子を伺いに外へと向かう。
ザハもまた、同じように外へと出た。
ギルド本部と第二層への階段までの道を真っすぐ歩く集団がいた。
皆一様に武装を整え、傷だらけでありながらその姿は精悍さも備えていた。
数は三十程度で、老若男女様々な存在がそこにいた。
『フェンリル』
それはここ『明星の狼』に所属している中で最大戦力を有するチームである。
構成されている人間全員がB級以上であり、全員が単独でミノタウロスを倒すことができるとされている。
その名は他のギルドにおいても有名で、チームを結成して以降一度も死者を出したことがない、堅牢のチームとで名を馳せていた。
「今回は最下層を目指してるって聞いたけど、思ってたより帰りが早いな…………」
「今回の件で急遽打ち切ったんだって。一部のメンバーもいないから都合がよかったって聞いたけど…………」
「マジか、てことは直々に調査をするってことか?」
「それは分からないけど、でも────」
周囲を囲う人々が噂話をしているなか、ザハはこっそりとギルド本部へと向かう。
そうして『フェンリル』一行はギルド本部に到着すると、帰還した旨を受付嬢に伝えた。
「さて、と。それでは…………」
「よ。元気そうで安心したぜ」
受付を行った女性がそう言おうとした瞬間、頭上からザハが声をかけた。
ザハは二階にあるバルコニーから軽やかに飛び降りると、何も気なしにリーダー格の女性に声をかけた。
「…………」
「なんだ?オレがいたらまずかったか?」
本来であればB級のザハとリーダー格の女性では力量差があまりにもあるはずだ。
古い友人や、何かの縁がない限り、まるで知人のような感覚で話しかけるのは礼儀を欠いた行為と取られても仕方ないことだった。
だが。
「お久しぶりです。隊長」




