27
エルフィン王国領土、とある村の近くの小屋。
うっそうとした森の奥に佇むそれは、あちこちに小さな穴のある長年放棄されたものだった。
中にあるのはベットとテーブルとイスしかなく、部屋数もたった一つだけ。
窓も左右に一つずつしかないが、片方はひび割れ、もう片方には蜘蛛の巣が張ってある。
どう考えても生活している環境ではなく、雨風を凌ぐ以外に使い道のないものだ。
「…………」
埃だらけのベットに寝ているのは一人の青年だった。
不気味なまでに真っすぐな髪の毛に、酷くやせ細った体型。
なにより目を引くのは二の腕から先が喪失している右腕だった。
今は血が止まっているらしく、先端に血は滲んでいない。
「…………」
それを眺めるように、テーブルの近くの椅子に年老いた老人が腰かけていた。
特徴的なのは深く蓄えられた髭に、意匠が凝らされた杖。
そして金属の具足をはめた右足が暗い部屋の中で光沢を放っている。
老人は何をするのでもなく、ただじっと眠る彼を見つめていた。
その表情に変化はなく、それでいて動く気配はない。
「…………んん」
ベットの方で声がした。
もそもそと音がすると、ゆっくりとした動きで青年が起き上がる。
「あれれ?じーじがいる」
「…………その言い方はどうにかならんのか」
髭を撫でながらそう苦言を漏らすが、青年は全く気にしている様子はなかった。
「あれれれ?そういえば、依頼はどうなったの?」
「失敗、だな。当面は養生に務めるように、だそうだ」
「ふーん」
あまり興味がなさそうな返事に、老人は思わず頭を抱えた。
いくら任務とはいえ、これを制御するのは些か骨が折れる。
だからといって自由にさせれば、確実にもめ事を起こすのは明確だ。
後始末をするか、労して制御するか。
どちらがマシかと言われれば、老人は後者だった。
(しかしだ、あれだけ息まいておいてこの様とはな。一度、根本的に見直すべきか…………しかし、基礎は間違っていないはずだ。であれば、方向性を直すほうを優先するべきか…………)
「あ、そういえばさ!面白い子がいたんだけど」
「面白い?」
思わぬ発言に老人の眉が動いた。
この青年から、まさか他人の話が出てくるとは想定していなかった。
「うーんとね、なんか変な子だった。何回切っても切れない盾を持ってて、しかも切っても切っても動いてるんだー」
「ほう…………それは、不思議な話だな」
これの実力は間違いなく高いレベルである。
その性質とこれの戦闘スタイルを鑑みると、攻撃を受けても尚死なないというのは極めて珍しい。
相当にタフなのか、もしくは死なないのか。
どちらにせよ聞いたことがない話だった。
「その話はあとでよい。ひとまずは引き上げるとしよう」
「はーい」
「そういえば、その腕のことだが」
「あ、うん」
肘から先のない腕をフリフリと宙に振る。
本来であればもう少し焦ったり、驚いたりするのだが、この青年は当たり前のようにそれを受け入れていた。
「既に代わりを用意しておる。心配せずとも、すぐに戻るだろう」
「はーい。楽しみだなぁ」
おつかいにでもいくかのような口ぶりに、思わず老人は笑みを浮かべてしまう。
ドアに手をかけると、老人はふとその動きを止めた。
「しかし、何度も名を覚えないのは些か不便であるな」
「えー、覚えてるよ。アダルンハトでしょ?」
「アデルナハトだ。全く、もう少し覚える努力をしたほうがいい、ジャックよ」
えー、と口を尖らせるジャックを見て、不可能かもな、とアデルナハトは嘆息する。
そうして二人はドアを開き、気が付けばその場からいなくなっていた。




