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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第2章 明星の狼

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21

 それは、唐突に平穏を破り捨てた。


 ──────────────────────────────!!


 聞き覚えのないサイレンだった。

 サイレン、と判断できる音ではあったが、聞き覚えのあるものよりはるかに音が低い。

 それでいて、どこか不気味で不安な気持ちを駆り立てる音だった。


 サトーとリーゼは慌てて立ち上がると、急いで周囲を確認した。

 サイレンの音にかき消されながらも、少し離れた位置にいるザハから、こんな声が聞こえてきた。


「モンスターパニック…………!?」 


 モンスターパニック。

 まるで聞き覚えのない言葉だが、言葉通りの意味なら間違いなくいいイベントではないだろう。

 というより間違いなく悪いイベントだ。

 そうでなければあのザハが驚くはずがない。


「リーゼ!モンスターパニックっってなに!」


 そう尋ねると、リーゼの表情も驚愕のものに変化し、即座にこう説明した。


「モンスターパニックとは、ダンジョンに仕掛けられている防衛機能の一種です。特徴としては人口魔獣の大量発生、それも局所的に過剰に発生することで、冒険者の命を奪うトラップとされています」

「でもこれどう見ても局所的ではなくない!?」


 どう聞いてもここら一帯に鳴り響いている。

 いくらザハが広くない、と言っていても流石に開放的過ぎる場所だ。


「はい。しかもモンスターパニックが発生するのは二五層から。こんな浅い層で発生する事例なんて聞いたことがありません」

「ってかシェルアは!」

「────ッ!お嬢様!」


 言い終わるより早く駆け出すリーゼの腕をザハが掴んだ。


「何を────ッ!」

「落ち着け。来てる」


 すると周囲に黒い靄が発生した。

 靄は何十にも重なると、やがて形ある存在に変化していく。


 隆々とした筋肉に、違和感のある直立した姿勢。

 目は血走り、荒い息は遠くからでも聞こえる。

 目を引くのは自身の上半身よりも大きな斧と、鋭く尖った角。


 それは緩やかな湾曲を描いており、突進するのに最適な形をしている。

 背丈は四メートルを優に超える巨体だった。

 股下だけで自分一人なら通れるくらいの高さ。


「おいおいおいおいおい…………なんでこんなとこにいるんだよ」


 名前をミノタウロス。

 神話にも現れる空想の生き物。

 その伝承そのままの姿をしたそれが、周囲を覆うように、無数に出現した。


「いやいやいや、あれやばくね!?どこらへんが危険じゃないのこれ!?」

「だからありえないっての!ミノタウロスはそもそも二十層から現れる敵で、本来ならB級冒険者が複数人でも倒す存在だ。しかもモンスターパニックの対象で出現するなんて話は一度だって聞いてねぇ!」


 ミノタウロスはゆったりとした足取りでこちらに向かってくる。

 気づけば先ほど出会った駆け出しの冒険者の一行も近くにいた。


 恐らくザハがこちらに連れてきたのだろう。

 パニック状態で、見るからに戦意を喪失している。

 その中でも冷静を保つザハとリーゼは状況の確認を進めていた。


「このフロアの冒険者の数は?」

「こいつら含めて三組。残る二組はどっちもC級の冒険者だ」

「なるほど。位置に心当たりは?」

「ねぇな。少なくとも、近くではない」

「それなら──────、」


 その瞬間、走り出す影があった。

 見るからに重たい荷物を背負った青年は、勇猛果敢にミノタウロスの群れの一体に突っ込んでいく。


「なっ!?おい馬鹿なにやってる!」


 完全に不意を突いた動きだった。

 周囲にいた味方はもちろん、彼らを包囲するミノタウロスたちでさえ、明確に戸惑いの声を上げる。

 それは彼が直進している方向にいるミノタウロスであった。


 特徴的なくせっ毛の青年は、猛り声をあげ振り下ろした斧を前方に飛び込むように躱す。

 それは亀の甲羅のように、盾が振り下ろされた斧を運よく受け流した。

 そうして前方に転がるようにしながら包囲を抜け出した。


「悪い!そっちは頼む!俺はシェルアのとこに行く!」

「いや!…………ってなるほどそういうことか」


 周囲を素早く見渡し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると。

 状況を理解したザハは携えていた剣を構えた。


「オレがこいつらの相手をする。リーゼはそいつら連れてここから脱出しろ」

「かしこまりました。それでは」


 言い終わった直後、出口の方向にいた数体のミノタウロスの体が瞬く間に吹き飛んだ。

 そのあまりの速さにミノタウロスたちでさえ反応できておらず、遅れるように轟音が鳴り響いた。


 そこでようやく気が付いたのか、駆け出しの冒険者の一行が空いた穴を通り抜けて、なんとかその場を離脱する。


 残されたザハは一人、剣を床に突き刺し、大きくため息をついた。


(ったく、見落とすなんて情けねぇ話だ)


 先ほどできた穴はとっくに埋まっている。

 無数にいるミノタウロスは息を更に大きく荒げながら、その瞬間を待っていた。

 腕を組みながら、心底感心した様子でサトーが向かった方向を見つめる。


(にしてもあの野郎。咄嗟に隙をついてシェルアのとこに向かったのか。見どころがあるとは思ってたが、予想以上だったな。こりゃオレの権能も形無しだ)


 何度か体を動かしながら、ザハは悠長に状況を確認していった。


(多分意図的に発生したモンスターパニックに似た何か。しかも優先順位は俺が一番上か。なら、シェルアの方にはそこまでいないだろう。もしいても、せいぜい一体が限度だろうな。あの嬢ちゃんなら一体くらいならどうにか対処もできる。なによりサトーが向かってるなら心配はねぇか)


 剣を遊ばせ、軽く振るう。

 調子を確かめるというよりは調子を整えるような動作は、段々とその精度を高めていく。


(つまり、こいつらを倒せば事態はそこまで悪くはない。狙いは分からんが、どことなく意図は読める程度。多少は厄介だが、はっきり言って脅威じゃない)


 そこまで考え、ザハはゆるりと剣を空中で止めた。

 片手で構え、もう片方の手でその腕をつかむ。


 それだけで周囲の緊張感がグン!と跳ね上がった。


「さて、と。のんびりやってる暇はなさそうだ」


 周囲のミノタウロスの群れはそれを目撃することになる。


「『虹よ光を、七つに瞬け』」


 ただしそれは、つかの間の時間であったが。

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