18
ギルド『明星の狼』。
地上にある受付にて。
四人はそこで簡単なやりとりを済ませると、その奥に足を進めていた。
「もっとこう、煩雑な手続きが必要になるかと思ってたんだけど…………」
「だから言ったろ。危険性はそこまでないんだって。第一層なら本当に誰でも行けんだよ」
廊下を曲がると、その奥から光が差し込んでいた。
簡単な照明しかない通路から見るとかなり眩しい。
「さて、と。行きますか」
大きく背伸びをしながらザハはそう言った。
緊張感のかけらもないザハとは対照的に、シェルアはどこか落ち着かない様子だった。
「大丈夫?」
「あ、うん。問題ないよ」
そう答えたシェルアは、視線を外してこう呟いた。
「なんだか、夢みたいだなって」
首をかしげると、シェルアは言葉を続けた。
「だって、少し前まであのお屋敷で、一人本を読むばかりだったから。それが外に出て、ダンジョンに向かうなんて今でも信じられなくて」
ここでやっと、今この瞬間がシェルアにとって最も大切な時間であることを理解した。
彼女の夢、外に出て冒険に出る。
物語の主人公のような、煌めくような冒険を。
「頑張ろうぜ」
サトーはそっと右の拳を突き出した。
一瞬ぽかんとするも、シェルアは笑みを浮かべて、そっと拳を合わせてくれる。
「うん!お互い頑張ろう」
不慣れな、あまり礼節に欠いた挨拶だが、シェルアはどこか嬉しそうだった。
光が射し、一気に視界が開ける。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
とても広く、どこまでも広がっている穴があった。
穴、と例えるにはあまりに広いそこは、さながらクレーターのようにえぐれて作られたものらしい。
眼下に広がる空間には瓦解した残骸があちこちに散乱している。
高さは約二十メートルといったところだろうか。
今立っている場所から右側に、壁沿いに続く階段が見える。
どうやらそこから降りることができるらしい。
比較的古いものの、造りそのものは下にあるよりも新しいものに見えた。
よく見ると、複数の集団があちこちにいるのが見えた。
真っすぐ歩くものや、観光をするかのようにあちこちを見て回るもの、挙句の果てには冒険者同士で戦っているものまでいる。
どうやら訓練の一環らしく、周囲の人間は楽しそうに声をかけている。
「広い…………」
シェルアは感慨深そうにそう呟いた。
その一方で、ザハは呆れた様子で口を開く。
「ここはもともと地中にあったんだが、どっかの馬鹿が天井をぶっ壊したらしくてな。そのせいで工房の仕掛けそのものが壊れてるらしい」
「つまりここには魔獣は出てこないってことか?」
「魔獣どころか魔術の仕掛けも何もない。『連れなる社』は全体でみると三角形みたいになっててな、下にいくほどに空間が広がってる。ここはまださほど広くもなければ、冒険者らしく魔獣と戦うこともできない」
「広くないって…………」
見渡す限り一キロメートルはあるかと言わんばかりの広さのこれを、広くないと言い切るザハの発言は流石に絶句するしかなかった。
それでも、本当にそう思っているのか、何も気にすることなく大きく背伸びをした。
「ま、こんなんでも見晴らしはいいからな。空き地にしては様になってるだろ?」
「マジで単なる空き地なのか」
「そうなるな。一応、二層にいく階段もあるってことで、受付を通過する必要がある。が、正直必要はない。なんなら二層の近くに関所でも作りゃ移動も楽なんだが」
「あー、まぁそれは少し思った」
この街は、恐らくダンジョンを囲うような形で作られていて、使用目的に応じて区画がきちんと分けられている。
ギルドの本部がある通りを中心とした区画は食事処や、酒場といった建物が多く、今日行った店がある区画が恐らく武器や防具を造り、販売している区画。
そしてここを挟んだ反対側が宿や生活するための建物がある区画。
最後にギルド本部の反対側にあるのが恐らく物資などを搬入、輸出するための区画の四つに分類されるのだろう。
住み分けされていること自体は望ましいことではあるが、正直なところとてつもなく広いため、移動だけでも一苦労ではあった。
馬車などを使えばいいのだが、先日の一件を踏まえると迂闊に使うこともできない。
したがって移動は全て徒歩で済ませていたのだが、これがなかなかに大変だった。
「ま、そういうわけで、ここは危険なとこが何もない。これじゃあダンジョンに来た感じもしないから、今日は二層まで行くけどな」
「二層はどんな感じなんだ?」
そう尋ねると、ザハは肩をすくめこう言った。
「なに、仕掛けも広さも大したことない。せいぜい雑魚が湧くだけだな」
行くぞ、と告げてザハは階段を下りていく。
シェルアは足取り軽くその後を追い、サトーは背負った盾の位置を少しだけ変えた。




