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「らぁ!」
透き通るような金属音が響き、遅れて地面をこする音がする。
訓練場では、ザハと向かい合うサトーの姿があった。
「へぇ、いいじゃんか」
剣を肩に置くと、感心したようにザハが口を開く。
「確かに、『不死』の権能持ちのアンタ向きではあるな。なにより、他の武器より明らかに動きがいい」
言い切る前にザハは動き、二度三度サトーを斬りつける。
決して手を抜いているわけではないのに、サトーは一度も攻撃を喰らうことなく耐えきって見せた。
「盾か。その調子だと、アンタとの相性がいいらしい」
サトーが手にしていたのは全身を隠せるくらいの大きな盾だった。
金属か何かでできたそれは、簡単な意匠がほどかれてはいるものの、どこか武骨で簡素な印象を抱かせるものだった。
上部は平たく、下部は鋭くとがっていることから、地面に突き刺し攻撃を受けることができる造りになっている。
「思いついたのは昨日でさ。丁度シェルアに文字を教わっていた時なんだけど」
盾を構え、真っすぐザハに突っ込む。
ザハはゆるりとそれを躱すと、その間に横薙ぎの一撃を振るう。
サトーはそれをすんでのところ、盾の側面で受けると、膝を折りしゃがむことでなんとか躱す。
「武芸の才能はないし、弓矢も練習が必要。すぐに役に立とうと思うならこれが最適かなって!」
ザハの剣戟をなんとかいなしつつ、サトーは話を続ける。
「ザハは剣ができて、リーゼは万能。シェルアは魔術が使える。一見すればどこでも大丈夫に見えるけど、きっとどこに入ってもバランスが悪い。それなら、俺が攻撃を受けたり、敵の注目を集めれば、他の負担がぐっと軽くなる。弓矢で援護するより、こっちの方が役に立てる気がしてな!」
『不死』の権能。
最初に思い浮かんだのは権能を行使しての突貫型の壁役だった。
だけど、権能を行使するたびに体調が悪化するし、なにより生身で相手の攻撃を受けることはできても、受け止めることはできない。
役に立とうとするなら、死ぬことなく攻撃を防ぐしかない。
そのうえで、どうしてもという状況下でのみ、保険として権能を行使する。
そんな中、シェルアに盾を使うことを提案されたのだ。
様々な要素を加味した結果、これが自分が思いついた現状の最善手であった。
だが。
(思ってたより重いし、すげぇ痛いんだが…………!?)
全身にびっしりと汗をかきながら、あちこち痛む体をどうにか動かす。
この体はあくまで平均的だ。
いくら持ってかざすだけとはいえ、自在に扱おうとするとそれなりに力を有する。
しかも攻撃を受けるたびにその衝撃が手首を通って全身に響いた。
ザハは間違いなく手を抜いている。
こっちが必死になってるとはいえ、駆け出しの冒険者とB級冒険者。
実力は明確に向こうが上だ。
今こうして攻撃をなんとか受け切れているのは彼が加減をしているに他ならない。
だとしても。
「ぬりゃあ!」
盾を大きく振り上げ、ザハを攻撃を大きく弾く。
「おっと!」
流石に不意をつかれたのかザハは一呼吸で距離を取った。
だとしても、これ以外に活躍する道はない。
あの時の魔獣とは事情が違う。
シェルアを守るためなら、これぐらいの無理は音を上げるほどではない。
「どうだ?これなら役に立てるだろ?」
肩で息をしながらも、なんとか笑みを浮かべ、真っすぐザハを見つめる。
ザハはしばらくその姿を見ると、小さくうなずいた。
「オレは賛成だ。リーゼとシェルアは?」
聞かれた二人はほぼ同時に口を開き。
「賛成です」
「了承しました」
と答えた。
ザハはそれを確認すると、構えていた武器を下ろし、手を叩いた。
「さて、と!それなら準備して行くか!ちょっと待ってろ!今すぐ他の物を手配する!」
そういい終わるより早く、ザハは颯爽とその場を後にした。
見送ったサトーは大きく息を吐き、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
「やー、まぁ、ぶっちゃけすっげー怖かった」
いくら殺意がないとはいえ、刃が自分に迫ってくるのは恐怖でしかない。
それこそ、あの時は文字通り死ぬ気で立ち向かっていたのだから忘れていたが、こうして自分の命がさらされている感覚は、こう、極めて体に良くない。
確実に寿命を削っている感覚がある。
「それでも、かっこよかったよ」
シェルアはそういって近づくと、そっと手を差し出す。
「へへ、ありがとな」
サトーはその手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。
一瞬嫌な気配がして、慌ててリーゼの方を見ると、心外だと言わんばかりにため息をついた。
「あなたが決めたのでしたら特に何も。足を引っ張るようなことがあれば蹴り飛ばしますのでそのつもりでいてください」
「う、うっす!」
なんだか敵よりよっぽど怖いと感じてしまうが、きっと冗談のつもりなのだろう。
冗談、で済むのか分からないけど。
「よっしゃ許可貰えたぜ!どうせ売れ残りだから持って行っていいってさ」
駆け足で戻ってきたザハは、開口一番そう告げた。
「え、でもこれ結構貴重なんじゃないの?」
なにせお店の棚の上に飾ってあったものだ。
随分と目につく場所にあったから使う選択肢を思いついたわけで、きっとそれなりに価値のあるものなのだろう。
実際、使っていても普通のものではないことは理解できる。
「らしいけど、あの人頑固だからな。一度決めたことは譲らねぇよ」
ガシガシと頭を掻くザハの様子から察するに、恐らくこれまでもあったのだろう。
そういうことなら有難く受け取る他ないが、それでも多少の後ろめたさは残るのが正直なところだ。
「ま、メンテナンスとか、消耗品とかを買うときにここを使ってくれ。きっとそれが一番喜ぶからな」
そう言われ、盾の持ち手をぎゅっと握った。
これからお世話になる、相棒との出会い。
これから先一緒にいると思うと自然と愛着が湧いてくる。
「分かった。大切にする」
そう言うと、ザハはニカっと笑った。
「さて、と。それじゃあ行くか」
「ん?他に何かいらないのか?」
「今日は下見。本格的に潜るのは明日からだし、見に行くだけなら特に何もいらねぇな」
それこそ近所を散歩するくらいの気軽さでザハはその場を後にする。
三人もまた、その後を追うのだった。




