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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第2章 明星の狼

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15

(やはりあの男。実力を隠していましたか…………)


 憶測でも実力の半分も出していないと感じるが、それだけでも十分に強い部類に入る。

 下手すれば、リーゼとて勝てるか分からない実力者だ。


 リーゼは頭上から感じる気配を察すると、小さく嘆息し周囲の人間に視線を向けた。

 

「それで、いつになれば仕掛けてくださるのでしょうか?生憎と、明日は朝が早いのです。できることなら、早急に片をつけ身支度を済ませたいのですが」


 周囲を囲う彼らは一言も発さず、ただ静かにリーゼを見ていた。

 しかし、いつの間にか彼らの手にはいくつかの武器が携えられている。

 両刃の剣に槍、短刀といった狭い空間で扱う武器が殆どだった。


 ただの一般人なら震えあがる状況だが、リーゼは違う。

 彼女にとって周囲を囲う彼らは草花も当然であり、脅威ですらない。


 ただ、その奥、リーゼから最も遠い位置にいる人物のみ、明確に力量が異なるのが理解できた。

 それこそ、周囲の彼らが不要である程度の手練れとみて間違いないだろう。


「さて、と」


 一言、そう呟く。


 リーゼは飽き飽きしていた。

 一日中付け回され、お嬢様の命を狙い続けられた。


 それも、二人に悟らせないために対処することもできないでいた。

 だが、今なら気にしなくていいだろう。


 直後、彼女の体がその場に消えた。


「がっ」


 うめき声と共に、周囲を囲っていた彼らの一人が遥か遠くの外壁にめりこんでいた。

 その現象を彼らが理解するのよりも早く、彼らの意識と体は遥か遠くに飛ばされていく。


 やっていることは実にシンプルだ。

 近づいて殴る。

 但しそれを、常人には見えない速度で行っているだけのこと。


 さながら台風のような現象を、奥に佇むローブの人物は動くことなく見つめていた。

 飛ばされてきた仲間を受け止めることもなく、それでいて加勢し反撃をすることもなく、だ。


「さて、あなたはどうしますか?」


 気が付けば、リーゼを囲っていた連中は一人としておらず、周囲の外壁から土片がパラパラと落ちていた。

 その発生源には黒のローブを羽織った人が意識を失いめり込んでいる。


「なに、ただの様子見だよ」


 しゃがれた、それでいて奥行きのある声だった。

 リーゼは一瞬訝しそうに眉を潜めるが、その正体が分かると即座に臨戦態勢に入る。


「どうして、あなたがここに…………!?」

「言った通りだ。様子見であるよ。彼らはただの囮でしかない」


 ローブを取ったその人物を見て、リーゼはぐっと奥歯を嚙み締めた。


 暗がりでもよく分かる豊かに蓄えられた白い髭。

 魔術を極めたものが身に着けるローブに、特殊な樹で作られたとされている杖。

 その杖は万物を理解し、この世の理を統べるとされている伝説の杖だ。


「…………よもや、あなたほどのお方が、こんなカルト宗教に下るとは思いませんでした」

「いや、私自身あまり宗教は好きではなくてな。身を隠しここに赴くのにはもってこいであった。それだけの話だ」


 そうだろう、とリーゼは考える。

 この人物がもし本物であったとするなら、そもそもこんな場所に一人で来るはずがない。

 なにより、これほどの人物がカルト教団に入教したとなれば、嫌でも耳に入ってくる。


 それほどの大物。

 少なくとも、私一人では手に余る。


「さて、と。用は済んだ。帰るとしよう」

「用?一体何の用があったのですか?」

「再三言っておろう。様子見だよ。宝石の少女、あれは善く育った。育て手が優秀であったからだろうな」


 その瞬間、リーゼの脳裏が一瞬で真っ白になった。

 狙いは、間違いなく。


「待たれよ」


 気が付けばリーゼの体には青く光る線が現れ、蒸気が漏れ出していた。

 全身を覆うそれはさながら蒸気機関のようにエネルギーを全身に蓄えているようで、心臓に反応するように脈を打っている。

 息は乱れ、今まさに飛び掛かりそうな形相を浮かべている。


 変容した彼女を見ても、老人は眉一つ動かすことなく、静かに静止の言葉を投げた。


「今はまだ、その時ではない。次期にその時が来る」

「逃がすトでモ?」

「勿論だ。そなたでは我には勝てないからな」


 断言され、その瞳がリーゼを捉えた。

 それだけで彼女は唇を噛み、戦闘態勢を解く。

 すると、彼女の体に現れていた青い線は音もなく消えた。


 その様子を見た老人は一度頷くと、彼女を背に闇に消える。


(あくまで確認のため、ですか。舐められたものですね)


 リーゼは苛立ちを隠すことなく舌打ちをすると、頭上の気配を察して小さく息を吐いた。


「おう。そっちはどうだい?」


 頭上から声がすると、ザハが上から降りてきた。

 リーゼは軽く首を振ると、つまらなそうに伝える。


「生憎と、敵になるような人物はいませんでした。頭上の連中の方がよっぽどマシかと」

「そうでもねぇさ。連中、散り散りに逃げるんで追いかけるのが大変だったぜ」


 肩をすくませ、困ったといった表情を浮かべる。

 よく聞けば頭上で複数人のうめき声が聞こえてくる。


 どうやら敵を全員捕縛していたらしい。

 律儀なものだとリーゼは感心しつつ、こう尋ねた。


「それで、彼らをどうするんですか?」

「一旦は『明星の狼』の牢屋にぶち込んで、あとは『闇夜の牛』に任せるさ」

「そうですか、でしたら私のほうも…………」


 そこでふと、彼女は言葉を遮った。


 そもそも、彼らの処遇に関して何も聞かされておらず、気にも留めていなかった。

 よく考えると、私は彼らを殺さないように攻撃をしただろうか。


 どうやらそのことに気が付いたのか、ザハが呆れた表情で顔を横に振る。


「ひとまず、生存確認からやるか」


 ポンと肩を叩くと、そっとリーゼから離れる。

 特に悪いことをしたわけではないものの、それでも乱雑だったことを反省しつつ、リーゼはザハに続いて生存者の救助を始めるのだった。

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