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「遍く者に救いの光を!」
誰かがそう叫ぶと、白装束の集団は恐ろしい速度で接近してくる。
それに合わせるように、頭上に構える集団が各々詠唱を開始した。
「オレは上を相手する!アンタは下を頼んだ!」
ザハはそういうと、勢いよく壁を駆け上がり、屋上に着地した。
数は八。
魔術を行使するための魔術陣を展開している人間が五人で、それを護衛するのが三人の構成だ。
「意外と用意周到だな」
口笛を吹いて感心したようにつぶやくと、ザハは気にすることなく突っ込んだ。
手に何も持たず接近するザハに対し、その一人が剣を構え、振り下ろす。
「よっと!」
だが、気が付けばザハの手には奇妙な形状の剣が握られており、目にも見えない速さで一人を数度斬りつけた。
その光景を見ていた集団がざわめきたつが、ザハはどこか嬉しそうに声をかける。
「まさか丸腰で相手するわけねぇだろ。あの婆さんじゃあるまいし、そんな無茶しないっての」
ザハの持つ剣を、一言で例えるなら海藻、と言うのが正しいだろう。
両刃の剣なのだが、刀身が波打つように大きくうねっていた。
それ以上に目を引くのは、刀身に埋め込まれた六つの珠だった。
それは水晶のように半透明で、色は赤、青、緑、茶、黄、黒に分かれている。
それぞれが独立した穴に埋め込まれているが、平たく薄い剣とはあまりに不釣り合いだった。
「ッ!魔術班!対象をあの男に変更しろ!」
誰か、恐らく護衛の一人がそう号令を出すと、魔術師の三人が描いていた魔術陣をこちらに向けた。
光り輝く魔術陣の色は赤、緑、茶色。
「…………はぁ」
「放て!」
号令の直後、魔術陣が更に光り、炎、風、土の塊が放たれた。
それらは真っすぐザハに向かうと、着弾し、爆発を起こした。
「やったか!?」
号令を出した者がそう叫ぶ。
すると、煙が斜めに切り裂かれた。
「なに!?」
現れたザハに、傷はない。
それどころか、土埃すら被っていなかった。
「おいおい、まさかと思うが、あれだけの時間があってその程度の威力かよ?今どきのD級冒険者だってもうちょいマシな攻撃をするぜ?」
「次弾、放て!」
残りの二人も続けて魔術を放った。
現れたのは雷と水流。
それらもまた真っすぐザハにめがけて進んでいる。
「…………ったく、情けねぇなぁ、おい!」
ザハは剣を肩で背負うように構えると、小さく息を吸って柄を強く握る。
すると剣の中心、埋め込まれている六つの球体が光り、火、風、水、土、光、闇を纏う。
「らぁ!」
怒号一閃。
魔術師が放った魔術が一撃で粉砕される。
振りぬいた剣は未だ六つの光を纏ったまま、ザハはゆるりと剣を構えた。
「つーか、そんなんでよくオレを相手しようと思ったな?どんだけ見積もりが甘いんだよ。おかしな宗教にハマって頭おかしくなったか?っと失礼、まともならそもそもそんなおかしな宗教に入らんわな」
「バカな!?こんなことありえん!」
「一応、説明しておくぜ」
狼狽する集団が水を打ったかのように静まり返った。
空気が変わったのだと、直感で理解したのだ。
「これは『虹の剣』っつって、まぁ文字の通り全ての属性の魔力を付与できる便利な武器でな。担い手の魔力に関係なく誰でも扱える優れモンなのさ。ま、すこーし癖があるけど、慣れればどうってことない」
魔術への対応策はいくつか存在する。
最も単純な方法は魔術師本人を倒すこと。
これは魔術を行使される前に実行する必要があるため、あくまで先手を取れた場合に限定される。
次に簡単なのは魔術で迎撃すること。
魔術はそれぞれ六龍を模した属性に分類され、それぞれに相性が存在する。
魔術戦においては、魔術の性質以上にこの相性が勝敗を分ける。
だが、人によって魔術における得手不得手が存在する。
例えばシェルアの得意な魔術は土であるように、この法則はすべての魔術師において有効とされている。
例えるならその人の趣味趣向に極めて近い。
つまり意識して改善することがとても難しく、全ての属性に精通し、かつ使いこなせる者はごく一部の例外を除いていない。
ごく一部の例外を除いて、だが。
「『虹の剣』だと…………!?だとしたら、貴様はまさか…………!」
その瞬間、彼を囲っていた者たちは理解した。
今、まさに目の前にいるこの男が誰なのか。
そして今、眠る狼の尾を踏んでいることを。
「気づくのが遅いんだよ間抜け。言っておくが、手加減はしねぇぞ」
剣を構え、低い声でそう告げる。
それだけで空気が歪む。
仮にそれに気づけたのなら、まだ救いがあったかもしれない。
だが、彼らはそれすら気づけず、慌てて攻撃を行おうとする。
それを見て、ザハは静かにこう告げた。
「誰に喧嘩売ったか、地獄の底で後悔しやがれ」




