13
「よぉ!こんな夜更けに何してるんだ?」
サトーらが宿を取った建物の向かい側、ちょうど部屋が見える位置にある建物の屋上に、二人はいた。
「別に。監視しているだけです」
「監視って、あの二人はそんなことにはならねぇだろ」
「今は、です。疑いが晴れてない以上、警戒すべきですから」
「あっそ」
適当に返事をすると、ザハは手に持っていた容器をリーゼに渡した。
「これは?」
「果実酒を温めたやつでな。アルコールは殆ど入ってないから安心しな」
暗がりで色まではよく見えなかったが、どうやらワインの一種らしい。
勢いよく飲むザハの様子から毒は盛られてないだろうと判断する。
「にしても、どういう関係なわけ?」
念のため液体に舌で触れることで毒見をしていると、ザハがそう尋ねてきた。
「どういう関係、とは?」
「言葉の通りさ。どう見ても釣り合ってないだろあの二人」
「さぁ。その問いには答えかねます」
「アンタ、マジでオレのこと信じてねぇんだな。全然飲まねぇし」
一口含んで口を離した様子をみて、ザハが呆れた様子で言う。
「当然です。むしろ今日初めて会った人を信じる方がおかしいかと」
「あれだけ街を案内してやったのにか?」
「その全員がグルという線を捨てられませんので」
「そのわりにきちんと食事は摂ってたな」
「生憎と、毒見はしました。それに、毒はあまり効かない体質ですので」
「ふーん。でことはおおよそ聞いた通りだな」
聞いた通り、という単語に眉をひそめるリーゼに対し。
ザハは手すりに腰掛け、こういった。
「オレ、大体のことは知ってんだ」
それを聞いた瞬間、リーゼは大きく距離を取り、右手につけている手袋に触れる。
まともじゃない殺気を正面から受けながら、ザハはゆっくりと両手を上げる。
「勘弁してくれ。別に何もしないさ」
「証拠は?」
「『宝石』の権能」
その一言で、リーゼの表情が大きく変化した。
それは驚きと困惑、その両方であり、なにより極めてリーゼらしくない表情だった。
「これが証拠、って言っても何も証明できてないけどな。ある筋から頼まれて、アンタらの傍にいる。書類では何もやりとりをしていないから、これもまた証拠はないけどな」
「動機は?」
そう尋ねられたザハはリーゼから視線を外し、街の方を見つめる。
「しいて言うなら、オレはここが好きでな。だからこそ、火種は早急に消しておきたいってだけさ。この街で好き勝手やられるのは気に食わない。ここは、オレたちの街だ。誰であろうと、縄張りを荒らされて黙ってることはできねぇよ」
「捉え方では、今ここであなたを消す必要がありますが?」
「勘弁してくれ。生憎、余計な争いはごめんだ」
「そうですか」
リーゼは軽く返事をすると。
「ですが、彼らはそうでもなさそうですよ」
視線を周囲に向けた。
気が付けば二人の周囲に複数の人影があった。
全身を黒のローブで覆い、その下から純白の衣装が見える。
数は十五といったところだろうか。
近くの建物の屋根の上や、路地の間からこちらを見ているようだ。
肝心の顔は奇怪な仮面をつけているためみることはできなかった。
「それで、どうします?」
そう尋ねられ、ザハは大きく肩を竦めた。
「どうするもなにも、やるしかないんじゃねぇか?今日は疲れたから帰ってくれ、って言って素直に聞きそうな感じはしないだろ」
「それもそうですね」
二人は互いに武器を構え、少し間を取って背中を合わせた。
リーゼは少しだけ背後を見れる立ち方だったが、ザハは特に気にすることなくリーゼに小さく伝える。
「ちと場所が悪い。移動するぞ」
「分かりました。今だけは、言うことを聞きましょう」
二人は静かに頷くと、息を合わせ、屋上から飛び降りた。
黒ずくめの集団が、さながら影法師のように追いかけてくる。
どうしてか攻撃は一切してくることはなく、不気味なまでに後を追い続けてくれた。
それから数分が経って、二人は唐突に足を止めた。
辿り着いたのは高い建物が規則的に並ぶ区画だった。
それぞれの建物はあと少しで触れてしまいそうなほどに密接して建てられており、一定の配列で並ぶ窓は高層ビルを連想させる造りだった。
それだというのに人の気配はまるでなく、窓にも明かりは全く見受けられなかった。
止まった二人に合わせるように、黒ローブの集団もまた、各々の配置につくようにまばらに広がる。
「ここら辺は冒険者の家が多くてな。この時間にいるやつは殆どいない。いたとしてもこの時間ならまだ酒場だろう」
「なるほど、つまりは」
「あぁ、遠慮しないでいいってことだ」
二人は先ほどと同じように構える。
黒ローブの集団は身に着けていた黒のローブを脱ぎ、純白の衣装を露わにした。
「随分と、趣味の悪い姿ですね」
「ま、分かりやすくていいけどな。多分こいつらは『極光教』の教徒だろう。ここ数年で急に勢力を拡大しているカルト集団だ」
この世界の住人は基本的には創造主である女神を信仰している。
信仰といっても行事には参加する程度の者もいれば、熱心に祈りを捧げている者もいる。
女神を奉る集団や教会も存在しており、この町にもそういった施設がいくつかある。
その一方で、極光教はその逆の思想だった。
女神を悪と断定し、それらの加護を受ける全てを否定することを経典としている集団。
主に民間人の殺しを行い、その危険性から、多くの国やギルドで禁止令が出るほどだった。
「であれば、倒しても咎められることはなさそうですね」
「そうなるな。さてと、来るぜ!」
構える二人に、白装束の集団が襲い掛かるのだった。




