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「…………やっぱり、今日の事を気にしてるんですか?」
シェルアが心配そうに尋ねる。
「…………まぁ、ね」
図星だった。
はっきり言って、どの武器を扱ってもまるで才能の欠片も見受けられなかった。
権能があると既に分かっている以上、魔術を会得することもできない上に、肝心の権能も使いこなせるものではない。
そのうえで、武芸に疎いとなると一体どこで活躍できるのか本気で考えてしまう状況だ。
それに対し、リーゼはメイドとしての知識と技術があり、シェルアは魔術が使える。
今日少しだけ見せてもらったが、石を弾丸のように射出し炸裂できる時点で、自分より役立つのは明確だ。
「ま、役割は考えとくわ。探せばできることはあるだろうし」
ザハからそう言われたが、流石にここまで役立たずだと心に来てしまう。
魔獣との一戦で、あれほど無力さを痛感したのに、ここにきてそれを更に痛感してしまったのだ。
なにより、ギルド前での出来事。
ザハから聞いた話だと、自分は何もできていなかった。
ただ情けなく吹き飛ばされ、介護されただけ。
リーゼ一人ならそもそもこんな事態が起こらなかったかもしれない。
そう考えれば考えるほどに、自分の力の無さを痛感する。
だからこそ、言語くらいはと期待していたのだが、
「誰にだって向き不向きはあります。それはリーゼにだってあると思います」
優しく話すシェルアは、一度視線を大きく外し、窓の外を見た。
「私は、あの日魔獣と戦うのをやめようとしたんです。敵わないと、そう思っての行動でした。浅はかだったと、今ではそう思えますが、その時は仕方ないと思いました。大きな力には抗えないと。私の国が滅んだのもそうでしたから」
淡々と話すシェルアは、あの日見せた激情を胸の内に秘めているようだった。
それはまるであの日のことを嚙み締めるようであった。
「ですが、あなたは立ち向かった。どんなに倒れても、最後の最後まで立ち上がり、戦い続けた。結果を私は知りませんが、こうして三人とも生きてます。こうして今日、あなたに文字を教えることができてるんです」
顔を上げた先で、シェルアは小さく、穏やかに微笑んだ。
大切なものを慈しむように、その言葉はじんわりと溶けていくようだった。
「あなたにはそういった、見えない強さがあると思います。他人を信じ、奮い立たせる力です。それは誰しもが持ち合わせているものではありません。だからどうか、自分を悲観しないでください。あなたにはあなたにしかできないことがあるんです」
「…………シェルア」
「なんて、余計な発言でしたね。少し休憩にします。続きはその後にしましょう」
そういってシェルアは部屋を後にする。
残されたサトーは一人、机に勢いよく頭をぶつけた。
「ったく、何情けないことしてんだ俺は」
力も実力も、チートじみた才能も何もない。
そんな当たり前の事実を受け入れ、それでも頑張ると決めていたのに。
そのうえで彼女を守ると誓った。
だというのに、本人を不安にさせて励まされる。
「情けない。マジで情けないぞ俺…………」
ここまでくれば腹をくくるしかない。
受け入れるしかないのだ。
この世界において主役にはなれない。
きっと誰かにとっての物語の、脇役程度の存在だろう。
だとしても、大切だと思える存在を守る。
血みどろになりながらも、そう誓ったのだ。
そのためにはできることを一個ずつやるしかない。
「よっしゃ!とりあえず今日中に覚えるぞ!」
両手で頬を叩くと、置かれた紙とのにらめっこを開始したのだった。




