10
「さて、少し暗くなっちったな。とりあえず片っ端から試してみるか」
ザハは両手を軽く打ち鳴らすと、親方が持ってきた箱を開けて物色を始めた。
「剣に槍に弓に斧に、投げナイフに鎌、棍棒に籠手ってとこか。癖の強い道具は避けるとして、なんか使いたい武器とかあるのか?」
「いや、特にそういうのはないんだけど」
ガチャガチャとかき分けてるザハを見ていて、サトーはあることを思い出した。
「そういや、俺が着ていた例の装備は?」
「あーあれか、手当するときにギルドに預けたわ。必要なら回収しておくぞ?」
ちらりとリーゼを見ると、小さく顔を横に振った。
「いや、いいや。どうせだしここで揃えるよ」
「そうか…………うっし、それじゃ始めるか」
そういって渡してきたのは両刃の剣だった。
長さは股下くらいで、特に説明することもないくらいの何の変哲もない、ただの剣だ。
「とりあえず、そこに置いてある樽を斬ってみろ」
と、言われ。
登り切った日差しが傾き始めていた。
「えっと、これがこうなって、で、ここをこうして…………」
雄たけびをあげることなく、ぶつぶつと呟きながら何度も手元を確かめる。
「で、これをこうして、こうだ!」
放たれた矢は、目標とはまるで異なる位置に飛んで行った。
「これも、ダメそうだな」
ザハの呆れた声に、流石のサトーも肩を落としていた。
ここまで全ての武器を試したのだが、まともに扱えるものが見当たらなかったのだ。
そこで比較的扱いやすいであろう弓矢を試しているのだが、矢は飛ぶが的に当たる気配がない。
「…………」
「ん?どうかしたのリーゼ?」
黙っているリーゼを不思議そうにシェルアが見つめる。
リーゼは一つ嘆息すると、つかつかと近づき二射目を放とうとしているサトーを止めた。
「一旦、やめてください」
「え、あ、うん」
そう言われ、番えていた矢を外した。
いつもと変わらないはずのリーゼの表情に、何故か恐怖を覚える。
「サトー」
「え、あ、はい」
そう言われ、サトーは思わず背筋を伸ばす。
予兆は、間違っていなかった。
「簡単に伝えますので、一度で覚えてください」
その懐かしく、恐ろしくもある単語を聞き、サトーの背筋がブルリと震えた。
これは初日、仕事を教わる時に言われた言葉だ。
簡潔な言葉だというのに、何故が寒気がしたので嫌でも記憶にある。
あの時ほど、絶対に忘れられないと感じた瞬間はない。
「まず、肩幅程度に足を開いて、そう、そのくらいです。そして肩の力を抜く。弓は力を必要としません。その気になれば子供ですら弓矢を扱うことが可能です」
リーゼはサトーの背後に立つと、そっと両手をもった。
「ちょっ!リーゼさん!?」
「落ち着いて。私の動きに合わせてください」
手を取った状態で弓を構える。
同じ動きを伝えるためにリーゼはサトーの背中にぴったりとくっついた。
当然、それが背中に当たっている状態だ。
「え!リーゼさん!?」
「うるさい。抵抗せず早くやりなさい」
顔面が真っ赤になっているうぶな少年サトーを他所に、リーゼは若干の苛立ちを抱きつつ指示を出した。
もはや何が起こっているのかまるで見当がつかないサトーだったが、心を鬼に、無想の領域に精神を無理やり押し込めて集中する。
「矢を番えて、ゆっくりと引く。力を込めず、押し込むように。矢は放つのではなく手放す。弓を持つ手はそのままで、そっと矢を持つ手を。今!」
パっ、と手を離すと、弦に絞られていた矢が勢いよく放たれ、樽に突き刺さった。
その様子を確認すると、リーゼはサトーから距離を取り、元居た位置に戻る。
「弓矢は比較的可能性があります。当面は練習を重ね、実力を磨くのが妥当かと」
「じゃ、じゃあ、私も色々試してみたいんですけど」
「おう。時間はまだあるから、好きなだけ試しな」
目を輝かせながらいくつかの武器を手に樽の方に向かうシェルア。
ザハはその姿を手を振って見送りつつ、トボトボと戻ってくるサトーにこう尋ねた。
「どうだった?」
「なにが?」
「柔らかかったか?」
「………………うん」
顔を真っ赤にするサトーを見て。
(コイツ、めちゃくちゃ面白いな…………)
ザハは真新しいおもちゃを見つけた子供のように、一切の邪気のない笑みを浮かべると。
嬲るように、サトーの肩に腕を置くのだった。




