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街を散策する間、ザハは終始饒舌だった。
ご丁寧にどこの店がいいとか、ここの料理は絶品だとか、そういった細かな話を道中ひたすらしてくれた。
おかげで今晩の食事の場所と宿泊する建物の目途が立つくらいの説明だった。
しばらく歩いた後、ザハはとある地点で足を止めた。
「ここはオレの行きつけの店でな。駆け出しから玄人まで、幅広い商品を扱ってるんだ」
外見は一見するとロッジのような外観をしていた。
木々を積み重ねて作られ外壁に、見たことのない種類の花が植えられた花壇、出入り口はガラスが埋め込まれたドアで、近くにはポストらしきものがある。
ザハに続いて階段を上り、扉を開けて中に入る。
「おお…………!」
さながらそこは展覧会のようだった。
様々な武器や防具、それに用途がよく分からない道具の数々がごまんと並んでいる。
鎧を人形に取り付けて展示しているブースがあれば、何かの金具が箱いっぱいに入っているブースなど、見ているだけで少年心をくすぐるような場所だった。
「すごいですね…………!」
シェルアは目をキラキラさせながら、吸い込まれるように奥に向かっていく。
リーゼは嘆息すると、その後を追った。
多分不用心だとかそんな辺りだろうけど、シェルアからしたら心が躍って仕方ないだろう。
「この奥、というかすぐ近くの建物が工房でな、ここで売られてるのは主にそこで作られてる。質がよくて安いっていうんでかなり人気だぜ」
ザハは得意げにそう説明すると、奥の扉に向かいノックすることもなく開けた。
「お、おい!ここ店だぞ!流石にまずいんじゃ…………!」
「ここの店主とは付き合いが長くてな。このくらいならいちいち聞きに来なくていいって言われてんだ」
どうやら本当にそれなりに顔が広いらしい。
最初はホラ吹き野郎かと思っていたが、実際はずっといい人なのかもしれない。
「ま、店主は無口で人見知りでな。あんまり人と会いたくないらしい」
「客商売なのにそれでいいのか…………?」
「腕は確かだからな。で、そこが訓練場だ」
奥のドアの先にあったのは店より二回りほどの広さの空間だった。
あちこちに木の樽らしきものが置かれ、地面のあちこちがえぐれている。
その一角に設置されている丸太は、どうやら武術の訓練でもしたのか木の幹がめくれていた。
「こんなとこがあるのか」
「ま、要は商品を試す場所ってわけだ。買ってから使用感が気に食わなくて返金しろ!なんて言われたら困るからな。一応は武具の修繕、改修もやってるから、その一環で必要になったってのもあるらしいが」
ここで武器や防具を試して、細かい調整を行う空間らしい。
となるとそこらへんに置かれてる樽は的といったところだろうか。
使い潰せるという点では便利なのかもしれない。
「わ、凄い…………!」
「随分広いですね」
遅れてきたシェルアとリーゼもまた、訓練場を見て驚いていた。
シェルアはともかく、リーゼが驚くということはこういった施設は割と珍しいらしい。
「…………あいよ」
野太い声がしたかと思った瞬間、自分の立っている地面が大きく揺れた。
「なっ!え…………!?」
そこにいたのは自分より背丈の低い、小太りした男性だった。
毛髪のない頭皮は真っ黒に焼けており、背丈と同じくらいの大きさの箱を持つ手は節くれだっていた。
見ただけで、長年働き続けた手だということがよく分かる手だった。
「よっ、親方。わざわざありがとな」
「…………好きに使え」
それだけ言うとさっさとその場を後にする。
向かった先には煙突があるレンガ造りの倉庫のような建物があった。
どうやらあそこで武器や防具などを作っているらしい。
それにしてもかなり渋い男性だった。
いかにも職人、という雰囲気をしている。
「…………うそ」
「…………」
ふとシェルアとリーゼを見ると、親方のことを見て絶句しているようだった。
もしかしてとてつもない有名人だったのか?とつい焦った気持ちになる。
「そうか。アンタら『ドワーフ』を見たことなかったか」
ザハがうっかりとした様子でそう言った。
ドワーフ。
言われて想像するのは背丈の低い、何か物を作るのに長けている種族だった気がする。
そう言われれば確かに背丈があまりに低いような気はしたが、比較できるほどの人数と会っていないのでそれほど気にならなかった。
「ドワーフは既に絶滅したのでは?」
リーゼがそう尋ねると、ザハは首を縦に振った。
「地上ではな。あの人は元はダンジョン生まれで、今はここで生活してるってだけだ。なんでも、ダンジョンの奥深くにドワーフの村があるらしくて、そこに訪れた冒険者にスカウトされて地上に来たらしい」
ただ、とザハは言葉を切ると。
「あの人自身色々とあったらしいんだが、あの性格でな。実際のとこはよく知らないんだわ。それとなく聞いてもすぐに黙るんで、今でも分からないってのが本当なとこだな」
絶滅、という言葉は置いておくとして、苦労という点はシェルアの発言から推測できる。
まぁ要するに簡単な迫害と差別といったところだろう。
この世界はかなり能力主義だから、そういった秀でた存在というのは疎まれるのかもしれない。
そんなことを考えるサトーの横で、リーゼがどこか寂しそうにドワーフの男の背中を見つめているのだった。




