8
ということがあって、現在。
ぽかんとしているシェルアと対照的に、リーゼは明確に、非常に分かりやすく怒りを自分に向けている。
「おいおい。そんな警戒しなくてもいいだろ?一応、こいつは容認したぜ」
頭を撫でられながら、サトーは再度二人を見る。
シェルアはどうしていいのか分かっておらず、明確に困っていた。
リーゼはなんていうか、アニメなら背景に燃えた映像が流れてそうなオーラを放っている。
絶対こうなるから嫌だったのだが、どうすることもできない。
「ザハ。一体どういうつもりだい?」
奥に座る老婆が口を開いた。
というかさっきまでまるで気にしてなかったが、あのおばあちゃん見るとなかなかにとんでもない容姿をしている。
半端なくでかいし、着物のような服を身に着けているが、露わになってる腕と足は筋肉で隆起している。
体が大きいのもあってさながらオーガのようだ。
(てかあれホントにおばあちゃんなのか?顔以外に皺の一つも見当たらないんだけど)
「いやなに、暇なんでね。それにこいつら案外面白そうでな」
にやにやと、笑みを崩さずザハは答える。
そこにいるお婆ちゃんの圧がとんでもないのだが、この男は全くと言っていいほど気にしていなかった。
それこそ道端で世間話をするくらいの気軽さで彼女と向き合う。
「細かい話はそれはここを出てからするとして。それで、他に要件は?ないなら終わりでいいだろ」
「…………ふん。好きにしな」
そのおばあちゃんは諦めた様子でそう吐き捨てた。
どうやらこれ以上は介入する気はないらしい。
解放されることと、これから起こるであろう事態を想像してしまい、サトーは極めて複雑な感情を抱いてしまう。
やけに広く、暗い部屋を後にした四人は、特に会話をすることなく、独特の緊張感を抱えたままギルドの前まで移動を済ます。
「さて、と。一応自己紹介だけしとくかな」
開口一番に、ザハはポケットから例の木札を取り出した。
「オレの名はザハ。個人でB級の冒険者。主な役目は主攻だが、基本なんでもできると自負してるぜ。それと知識には自信あり。きっと役立つぜ。よろしく」
そういうと木札をリーゼに差し出した。
リーゼは不審そうにしながらもその木札を受け取ると、その口を開いた。
「偽物、ではなさそうですね」
「そりゃそうさ。こんなギルドの真ん前で偽物見せるアホはいないだろうよ」
「えっと、ザハ、さん。この札の下についてる銀はなんですか?」
シェルアが指さしたそこには、銀色の金具が取り付けられていた。
確認のために自分の分を取り出してみると、サトーのには何もついていなかった。
「これが個人としての階級を示すのさ。最初は何もなくて、そこから銅、銀、金と付け替える。簡単に個人の階級が分かるようになってるわけだ」
「なるほど…………因みに偽装される方は多いのですか?」
「まー、たまーにな。でも、その金具には特殊な魔術陣が書かれていて、受付の際に魔力を通して確認するからすぐにばれる仕組みになってる。せいぜい酒場で虚勢張るのがいいとこだろうよ」
「でも俺らのにはそういうのないけど?」
「そもそもD級の冒険者を詐称する必要がないんだよ。誰でもなれるのに、いちいち金具つけてたら金かかって仕方ないだろ」
「そりゃそうか」
横から見ていてもまるで分からないが、確かにこの木札くらいなら誰でも簡単に作れそうではある。
なにより、それなりの数が必要とされているのなら、ある程度簡単に作れたほうが効率はいいだろう。
「それでだ。どうする?オレをチームに入れてくれるか?どうやら、アンタら次第みたいだからな」
その問いに対し、最初に口を開いたのはリーゼだった。
「いくつか質問を」
「おうよ」
「そもそも、何故私たちのチームに?」
「簡単さ。暇つぶしだよ暇つぶし。オレの所属しているチームが遠征に行ってて暇なのさ」
「では、報酬は?」
「あー、なら晩飯おごってくれ。それで十分さ。元々お金には執着しない主義なんでな」
「目的は?」
「一言で言えば趣味だな。駆け出しの冒険者に恩を売って尊敬されたいだけ。勿論、代わりが見つかればすぐに切ってくれていい。用は急ごしらえの代用品って扱いでいいさ」
一問一答。
あまりの早さにシェルアは目を白黒させている。
サトーもまた、事前に話を聞いていなかったらこうなっていたかもしれない。
そこまで聞いて、リーゼが目を閉じ黙り込んだ。
ここまで聞く限りでは、ザハにとってのメリットがないのは間違いない。
なにより、無給、という点も少し気になる。
もしかしたらダンジョンで見つかった遺物をかすめ取ってお金を稼ごうとしているのかもしれないけど、そこは多分リーゼがいる以上難しいとも思う。
「私は賛成かな」
ふと、シェルアが口を開いた。
そしてじっと、どこか嬉しそうにザハを見つめる。
「きっと、この人はいい人だと思う」
しばらく目を合わせていると、ザハがぷはっと噴き出した。
「ったく、そんな目で見つめられると邪な目的で加わろうとしてるのが恥ずかしくなるな」
「あ!えっと、その、ごめんなさい」
ペコリとお辞儀をするシェルアに対し、ザハはひらひらと掌を振った。
「気にしないでくれ。それで、アンタはどうだ?」
リーゼはゆっくりと瞳を開くと、こう伝えた。
「怪しい動きをすれば、即それ相応の対応をさせていただきます。それでよろしいですか?」
「あぁ。勿論構わないぜ」
「では。私の名はリーゼ。どうぞよろしくお願いします」
「おう。改めて、ザハだ。よろしくな」
二人は掌を軽く打ち合わせると、静かに笑みを浮かべた。
なんだか映画のワンシーンのような光景に思わず関心しつつも、サトーはザハにこう尋ねる。
「それで、これからどうする?ダンジョンに行くか?」
「バカ言うな。そんなことより、まずやるべきことがあるだろ?」
まるで見当がつかず、首をかしげるサトーを指さして一言。
「まずはアンタの装備を揃えるところからだ」




