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そのころ、シェルアとリーゼの二人は。
「で、突っ込んできた無人の馬車を、アンタが一人で止めたってのかい」
「はい」
赤い柱が並ぶ部屋に座っていた。
窓はなく、一定の規則で配置された敷物と蝋燭だけがこの部屋の個性だった。
周囲は薄暗く、時間が一気に飛んだような錯覚に陥る。
シェルアから見ても、そう答えたリーゼが緊張しているのがよく分かった。
その原因は、向こうに座る一人の女性だ。
「ふーん、ま、目撃者も多数いることだし、嘘じゃないんだろうが」
受け取った報告書がやたら小さく、さながら紙片のように扱う女性が、目の前に胡坐をかいて座っている。
背丈は二メートルを超えており、その眼光は魔獣のよりはるかに鋭い。
『明星の狼』のギルド長、ラフェール。
歳は既に百を超えており、かつてS級冒険者として活躍していた天才。
ついた異名は『狼王』
その実力は年老いた今でも健在と言われる、まさに生ける怪物である。
その周囲には二匹の狼が顔を伏せて座っており、じっとこちらを見ていた。
狼も決して小さくはないはずなのに、彼女のそばにいるとさながら小型犬のようだった。
「それで、アンタら駆け出しの冒険者ってのは本当かい?」
「は、はい!」
やたらと大きな眼球がぎろりとこちらを向いたため、思わずそう返事をしてしまう。
ここに来る前、やりとりは全てリーゼに託すと決めておいたのに、そんな約束事を一瞬で崩壊するだけの圧があった。
それを見たラフェールは、何かを考えるように頬杖をつく。
一瞬手元にある書類に視線を落とすと、即座に顔を上げた。
「ふーん。ま、怪我人は一人。それもアンタらの仲間と。被害も殆どないなら、ギルドとしては特に言うこともないね」
報告書を片手で握りつぶすと、さながらコイントスをするように親指で弾いた。
弾かれた塊はとてつもない速度で私たちを通り抜け、入ってきた扉の方に向かう。
「ったく、危ねぇな、おい」
すると。
タイミングよく開かれた扉から一人の男性が現れると、当然のようにそれを受け止めた。
真っ先に目を惹いたのは、その飄々とした姿だった。
頭にはバンダナが巻かれていて殆ど見えなかったが、髪は灰色に黒のまだら模様があるのが見える。
その後ろ、隠れるようにいたのは、渦中の真ん中にいるサトーだった。
サトーはこちらに気付くと、嬉しそうに顔を緩ませた。
どうやら無事だったらしい。
その姿を見てシェルアも思わず笑みを浮かべてしまう。
リーゼは一瞬驚いたようだったが、すぐに表情を戻した。
「なんの用だい?」
「目、覚ましたから連れてきただけさ。話をするなら全員いたほうが都合がいいだろ?」
報告書だったはずの塊をラフェールに向けて投げ返すと、どことなく胡散臭い笑みを浮かべた。
「それと伝えたいことがあってな」
「なんだい?」
投げ返された塊を握りつぶし、ほんの少しだけ表情を動した。
それだけで両脇に座る二匹の狼がむくりと顔を上げる。
一体何を言い出すのか。
慎重に構えている二人は、直後に耳を疑った。
「オレ、こいつらのチームに入るから」
あっけなく、それでいてなんてことなくそう言いのけた男性は、ラフェールを挑発するかのように笑みを浮かべ、
その隣にいるサトーは死んだ魚のような表情を浮かべていた。




