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「…………ん?」
やけに柔らかな感触を頬に感じながら、サトーは重たい瞼をゆっくりと開いた。
白。
目の前にあるそれはどこをどうみても白でしかなく、驚くほどに個性がなかった。
「んぁ……?」
どうやらうつ伏せで寝転がっているらしく、なんとか寝返りを打って天井を見上げる。
全くもって見覚えのない天井だった。
少し暗い色の木でできた天井は、それなりに年季が入っているのか色褪せており、よく見ればあちこちにヒビがある。
ずしりと重たい体を起こし、部屋を見渡す。
なんてことない、ごく普通の部屋だ。
机に椅子、少量の本が入った棚に、間接照明らしきオブジェクト。
足元の方にドアがあり、そこに知らない男がもたれかかっている。
「…………?誰?」
「よーやく起きたか。随分ぐっすりだったが、寝不足か何かだったか?」
誰かいる。
男、しかもかなり体が大きい。
もたれかかっているドアより大きかった。
作務衣、だったか。
それによく似た服を羽織り、頭にはバンダナをつけている。
そこから見える髪の毛の色が白髪の黒のブチがあった。
「だ、だれ!?」
慌てて立ち上がろうとして、上手く体が動かず頭からベットに倒れてしまう。
そんな様子をみていた男は、心底あきれた様子でこちらを見ていた。
「ったく、危機感がまるでないなアンタ。ま、こんなどこか分からんとこで寝てたんだから、そんなもんだろうけどよ」
傍にあった椅子に腰かけ、膝に肘を置き頬杖をついた。
ニヤリと笑みを浮かべた姿はさながら山賊のようだった。
「オレはザハってんだ。ま、一応は冒険者でな、今はここに拠点を置いてる。この部屋は一応は客人用の部屋で、無人の馬車に轢かれ、ギルドに飛び込んできたアンタを寝かせておいたんだ。覚えてるか?」
「えっと、馬車の件は全然分かんないです…………」
記憶にあるのはリーゼに叫ばれた瞬間、何かとてつもない衝撃が体を走ったことだけだった。
ギルドに飛ばされたということは、何かに攻撃されたということだろうか。
「そうだ!あの二人!俺、一緒に冒険者やる仲間がいて!」
「ああ、あの嬢ちゃんたちか。今話してる最中だぜ。なんでも、色々事情があるらしいからな。それに、轢かれていてほぼ無傷のアンタは少ーーーーしだけ怪しいってことらしい」
よく見ると、着ていた防具は全て脱がされていたが、肝心の怪我はどこにもなかった。
おおよそ、権能が上手く発動したのだろう。
強い衝撃によるショック死、とかそのあたりなのかもしれないが、その辺りが曖昧なのがこの権能の弱みだ。
「あー、あとな、そのヘンテコな髪も一応軽く切っておいたぜ。治療する際に邪魔だったんでな。ま、結果的に傷はどこにもなかったんだけど」
そう言いながら、ザハはぐっと顔を近づけてきた。
「アンタ、『不死』の権能持ちだろ?」
まさかの正解に、思わず全身から汗が噴き出る。
何も言えず、黙り込むサトーを見てザハはにやりと笑みを浮かべると音を立てて椅子に座った。
「やっぱりか。かなり珍しい権能だが、どうも使い勝手が悪そうに見える。あ、一応言っておくが、誰かに言いふらす気はねぇから安心してくれ。その分だと、あまり知られたくないんだろ?」
距離を取り、手をひらひらと振って否定するが、どこからどう見ても怪しいことこの上ない。
なにより、この男何者なのか、そもそも敵なのか味方なのかまるで判断がつかなかった。
聞かれたことに正直に話していいのか判断に困る。
と、そんなことを考えているのが伝わったのか、ザハは面倒そうに頭を掻いた。
「ま、こうもスラスラと話されても困るわな。勿論、目的もなしでアンタに話しかけてるわけじゃない。ちゃんとした理由があって丁重にもてなしてる」
「目的?」
見るからに胡散臭い笑みを向けられ、サトーの体が僅かに縮んだ。
どこを切り取っても、何も知らない相手から金を毟り取る詐欺師にしか見えない。
「安心してほしいが、オレは別にアンタに危害を加える気はない。その気なら、そもそもこの部屋に連れ込んだ時点でそうしてるし、なにより、手当をする必要はどこにもない。でも、アンタは五体満足で今ここにいる。そうだろ?」
「まぁ、油断させて騙そうとしてるかもだけど」
疑心そうに言うと、ザハはあっさりと肯定の意を示した。
「そりゃそうだ。ま、そこんとこは置いといてだ。一つアンタに頼まれてほしい」
「頼み?」
なんだかとてつもなく嫌な予感がしたが、この流れだと聞かないわけにはいかなかった。
さながら取り調べを受けているような圧迫感だが、どちらかというと被害者だと思うのは気のせいではないと思いたい。
「なーに、簡単な話さ」
先ほどよりも悪そうな笑みを浮かべながら、ザハはその頼みを伝えるのだった。




