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「冒険者の新規登録ですね。それではお名前と、チーム名をお願いします」
中はいわゆる木造の作りで、入って右手に受付を行うカウンターと受付嬢がいた。
青色と赤色の制服を着ており、着ているベストには『明星の狼』のロゴらしきものが描かれている。
あちこちに冒険者らしき集団がいくつかいた。
そのどれもが恰幅が良く、自分より遥かに強そうに見える。
きっとその認識で間違いないのだろうけど、どうしても気後れしてしまうのも事実だ。
(なんか、掲示板みたいなのが見えるな…………)
入って奥にある掲示板らしきところには、大量の紙が貼られていた。
あれが恐らく依頼の一覧なのだろう。
あそこで依頼を確認し、受注することができる仕組みだと推測できる。
そんな風に周囲を観察していたら、すんなり話が進んでいた。
「ちーむめい?」
もっとこう、冒険者になるためにはあることをしろ!みたいな展開を期待していたため。
何も起こらないどころか、考えてもいなかったチームの名前について聞かれてしまい、呆気に取られてしまう。
「…………?」
その様子を見たからか、受付嬢も困惑している様子だった。
多分、そんなことを聞いてくる駆け出しの冒険者はいないのだろう。
さっきの行商人の話しぶりから察するに、冒険者以前にこの世界の住人なら常識に違いない。
というかリーゼの説明、ちょいちょい欠陥がある気がする。
「サトー、シェルア、リーゼと。チーム名はサトーでお願いします」
「えっ?」
「はぁ!?」
驚く二人をよそに、リーゼがさっさと名前を決めてしまった。
というかチームサトーはないだろチームサトーは。
そんな死ぬほどダサい名前、絶対名乗りたくないし普通に嫌だ。
大体、もし自分が本当の名前を思い出したらどうするつもりなのだろうか。
「では、チームサトー。リーダーはサトーさんで登録しますね。後でチームの名前は変更できますので、いつでもお申しつけください」
「いやいやいや、ちょっとまっぃい!?」
素っ頓狂な声を上げたからか、受付嬢が訝しそうにこちらを見てくる。
鎧の隙間からリーゼにわき腹を掴まれているのだが、カウンターが仕切りとなっていて見えてないらしい。
傍から見てば奇声を上げて体をよじっている変人である。
「いえ。特に何も。それでは」
掴んでいるリーゼは顔色一つ変えることなく、さらりとお辞儀をするとサトーと一緒に外に出てしまう。
残されたシェルアは、おろおろと辺りを見渡し、慌ててその後を追おうとする。
「あのっ!こちらをお受け取りください!」
その直前で受付嬢に声をかけられ、急いでそちらの方を向いた。
シェルアは少しだけ顔を赤くしつつも、受付の人の話を聞くことにした。
「こちらが冒険者である証明の札です。人数分と、チーム用で計四つです。大切に保管してください。これがないと冒険者としての証を損ねてしまいますし、再発行には一定の期間と費用が必要になります」
そういって渡されたのは掌より少し大きめな木の札だった。
札の表には『明星の狼』の記号が刻まれており、裏面には何も描かれていなかった。
小さな穴が七つ空いているが、それが何を意味するのかはよく分からなかった。
「こういうことを申し上げるのは不思議な話ですが、シェルアという名、とてもいい名前ですね」
渡された札をまじまじ眺めていると、受付嬢が微笑みながらそう言った。
「失礼しました。シェルアという名前の方とお会いするのが初めてでして。職務と全く関係のない事柄です。申し訳ございません」
「いえ、あの、別にそれは…………」
まるで想定していなかった言葉に、どう返事をしていいのか分からなかった。
それでも何か言い返さないと、と咄嗟に思いついた言葉を発する。
「いい名前、なんでしょうか……?」
おずおずと、窺うようにそう尋ねる。
対する受付嬢は、どこか穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「少なくとも私はそう思います。この国の王女様から名前を頂くのは、大変名誉なことですので」
「そう、なんですかね…………?」
「はい。人格者で他人を思いやる優しさがあるとお聞きしてます。そんな風に育ってほしいと、ご両親はそう考えたのだと思いますよ」
あまりに縁のない話に、思わず動きが止まる。
少なくとも、他人からも、この国の人々から嫌われていると思っていた。
だというのに、この人はそう評価している。
その事実は、今までの認識からあまりに外れたものだった。
にこやかに見つめられていることに気が付き、シェルアは慌てて頭を下げる。
「ありがとう、ございます」
「いえ。これからの冒険に幸あらんことをお祈り申し上げます」
そういって深々とお辞儀をする受付嬢を見て、シェルアは自分が抱いている感情をどう言葉にしていいのか分からずにいるのだった。
その一方で。
「いてっ!いてっ!ちょまっ、マジで痛いんだけど!!」
全身をくねくねさせながら外に連れ出されたサトーは、必死に抵抗することで万力のようなリーゼの手から逃れることに成功する。
(あー俺、だいぶ変に見られてるなぁ…………)
周囲の人たちが、流石に何事かとこちらを眺めていた。
サトーはどこか達観しつつ、そんなことを考えながらリーゼと向き合った。
「一旦話をしよう、そうしよう。いい?まずチーム名、あれはどうかと」
「あ、証明書を受けとり損ねましたね」
「おい!」
全くのスルーで思わず突っ込んでしまう。
リーゼは特に気にしておらず、やたらと周囲を観察しているような気がした。
そもそも、ここに来てからリーゼの様子がおかしい。
どことなく、何かに追われているような──────。
「ッ!!サトー!」
「え?」
ドンと強めに押されたかと思うと、
気が付けば眼前に黒い塊が迫っており、
サトーの記憶は、一旦そこで途切れるのだった。




