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行商人と別れると、三人は背丈の数倍はある門をくぐった。
「……………………でっけぇ」
広い。
それが最初に抱いた感想だった。
目の前に広がるのは整然と石が敷き詰められた通りに、レンガや多種多様な材質で造られている建物の数々。
通りには驚くほどの人にあふれ、その活気は入り口の近くですら感じるほどだった。
そしてその奥、ひときわ目を引く建物が見える。
その最上階の一角に、赤を下地にした青色の狼の模様が描かれた旗が見えた。
「すごい、ですね…………」
隣にいるシェルアもこの光景に圧倒されていた。
あちこちに視線を走らせながらも、なかなかその場から動くことができないでいる。
「では、さっそくギルドに向かいましょう」
リーゼは興味がないのか、いつもと変わらない様子で歩き始める。
慌てて追いかけるシェルアに続く形で街の中心部に向かっていく。
(こう見ると、ゲームの世界みたいだな)
街の外見はヨーロッパの街並みによく似ている。
それも比較的新しい写真のものだったからか、どことなく親しみを感じてしまう光景に思えた。
RPGによくある中世の街並み、というものに近い。
酒場、食堂、服飾屋、鍛冶屋。
よく見ればその殆どが冒険者が利用しそうな店ばかりだった。
ショートスカートのメイド姿の人が気持ちのいい声で客を呼び込み、傷の多くある鎧を着こんだ一行とすれ違う。
どうやら冒険から帰ってきたばかりのようで、顔が随分高揚しているようだった。
(にしても、人間っぽい奴ばっかりっていうか、そうじゃないのが見当たらないな…………)
流れてくる人々の多くがおおよそ人の姿をしていた。
いわゆるリザードマンとかの人じゃない生物があまり見られない。
時折、動物の耳や角が生えている人物がいるが、それでも明確に見た目が異なる種族がいるようには見えない。
「四賽によって、多くの種族が絶滅に追いやられたんです」
ふと、シェルアが隣に立ち、そっと耳打ちしてきた。
どうしてわかったのか、と顔に書いてあったのか、シェルアが嬉しそうに微笑む。
「さっきから辺りを見渡しているので、もしかしたらと思って。お屋敷の近くにあった村には、そういった方々はいないので、珍しいのかな、と」
(案外抜け目ないな…………)
内心そう思いつつも、周囲を見渡してそっと耳打ちをする。
「そういう人があんまりいないのって、そんな理由なのね」
「実際はある程度いるとされていますが、あまり歓迎されないんです。この世界での人種は私たちみたいな見た目が殆どなので。それでも我が国は人の流れが激しいので、比較的受け入れやすい環境ではあると思いますが」
なんとも気分のいい話ではないが、そういったことがあるのもまた事実なのだろう。
異世界に来たからと言って、そういった部分がまるで存在しないという都合のいい話ではないらしい。
「そういうもんなのかね…………っと、そろそろかな」
「ですね。近くに見えてきた建物が『明星の狼』のギルド本部です」
改めて見ると、その大きさは他を抜きんでていた。
他の建物がせいぜい三階建てなのに対し、この建物だけ見る限りで六階まである。
しかも建物の幅も広く、シェルアのお屋敷が建物の敷地に余裕で入るほどに大きい。
「どうかなさいましたか?」
リーゼは相変わらず、一切の感傷を抱いてなさそうにこちらを見ている。
というか、あの様子だと以前来た事とかあるのかもしれない。
サトーは意図せず、全身にぐっと力が入った。
緊張しているのが自分でも分かる。
サトーは静かに、右手で握りこぶしを作り、正面を見据える。
「行こう。冒険者になるために」




