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話は続く。
「ま、要はギルドに認められればダンジョンに挑むことができるってことだな」
「そうなりますね」
「でもさ、それって他に何かメリットがあるのか?ダンジョンに挑まないなら、ギルドに入る必要ってそんなになさそうだけど」
「そりゃあ、箔がつくだろうよ」
幕の向こうから行商人の野太い声がする。
どうやら途中から話を聞いていたらしい。
少しだけ幕を開くと、真っ白な歯を見せながらこう続けた。
「ギルドに認可を得た冒険者ってのは基本的に優秀、もしくは安全って証なのさ。冒険者っていっても、俺らみたいな行商人の護衛やら、そこいらにいる魔獣の討伐、簡単な買い物なんかの雑務みたいに多種多様でな。雑用みたいな依頼をこなすのも冒険者の仕事の一つなのさ。そんで、ギルドに認可されてるってのはそれだけで選ばれやすくなるってことだな」
「はー…………おっさん、結構詳しいんですね」
「そりゃお前、これでもこの道四十年だからな。そこのお嬢さんには負けるが、それでも多少は詳しいと自負してるぞ」
胸に手を張り自慢げに笑う。
お嬢さん、と呼ばれたであろうリーゼはあからさまに渋い顔になり、シェルアはそれを見て困った様子で微笑んでいた。
「なにより、『明星の狼』の長はそりゃ凄いお方でな。人の背丈よりも遥かに大きな魔獣を素手で倒したことがあるそうだ。と言っても、見たことはないんだがな」
「素手で…………!?」
それを聞いて、手も足も出せずにコテンパンにされた記憶を思い出す。
正直な話、どれだけ努力しても勝てる気がしないくらいな力の差があった。
だけど、こうした話を聞くと、サトー自身はこの世界においてはかなり弱い方に分類されるらしい。
「冒険者は集まってチームを作るんだが、あそこには最も優秀である証のS級チームがいくつか在籍しているそうだ。チームってのは主に活動を共にする仲間、みたいなものだな」
つまり冒険者が集まってチームとを作り、様々な仕事をこなすのがこの世界での一般常識らしい。
そして活動拠点をギルド直轄の街に置いて、ダンジョンに潜る。
ここまで聞く分にはそれなりによく聞く話だ。
リーゼがこの話をしなかったのは、単純に順を追って説明したかったか、そもそもチームを組む必要性があまりないからかもしれない。
「そのS級ってのはなんですか?」
「そっちの話をしてなかったな。冒険者には級位ってのがあって、D、C、B、A、Sに分類されるのさ。この位で受けられる任務が変わってくる。当然、高位の冒険者の方が難易度の高い任務を受けられて、報酬もそれに応じて増えていくって感じだ」
地味にアルファベットの概念があることに驚きだが、そもそも文字が読めないのでどの記号がどのアルファベットなのかまるで見当がつかない。
てか、あの文字たちにアルファベットの面影をそこまで感じなかった。
ここまで聞いた限りだとチームにもそれが該当すると考えるのが当然だろう。
但し、この場合所属する冒険者の位に依存するのか、完全に別なのかはよく分からなかった。
「それって、個人の位とチームの位は関係があるんですか?」
「ない、とは言い切れないんじゃないか?少なくとも高位のチームには高位の冒険者が多数在籍しているらしい。俺が会ったことがあるのはB級までで、それより上とは一度もないからな。そいつが在籍してたチームはA級だとか話してたから、それなりに羽振りもよかったぞ」
「なるほど…………助かりましたありがとうございます」
お礼を伝えると、行商人は恥ずかしそうに頭を掻く。
「いやぁ話に割り込んで悪かったな。アンタら随分いい人そうだからつい気になってな。気を悪くしたのなら申し訳ない」
どうやらリーゼの機嫌が悪くなっていることに気が付いていたらしい。
リーゼは一瞬視線を行商人に向けたが、すぐに視線をもとに戻した。
「いえ。もとよりこういう顔ですので。余計な気遣いをさせてしまって申し訳ございません」
「なに、割り込んだこっちに非があるさ。さて、もうちょいで着くだろうから、それまでゆっくりしててくれ」
そういって行商人は幕を閉めた。
シェルアがどこか嬉しそうにリーゼを見つめているが、リーゼは変わらず外の景色を眺めている。
馬車の中は思いのほか揺れないものの、それでも地面を蹴っている間隔は伝わってくる。
風に揺れる草原に、照り付ける太陽。
そのどれを取っても穏やかで、心地いい景色だった。




