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よく晴れた昼下がり。
一台の荷車が雄大な草原をゆっくりとしたスピードで進んでいた。
「それで、その『明星の狼』ってのは?」
そう尋ねたのは一人の少年だった。
茶色のかなり癖のある髪の毛を地肌が見えるほどに刈り上げており、全身を真新しい鎧で包んでいる。
名前は佐藤。
だがこれは本名ではなく、あくまで仮の名前だった。
というのも、彼はここ最近までの記憶がなく、身元も出身も自分自身の事さえも知らない。
いわゆる記憶喪失、というやつである。
そんな彼はいわゆる異世界とやらに迷い込み、なんだかんだあった結果。
この世界の職業である冒険者になることになったのだ。
「『明星の狼』とは、この国最大のダンジョンの管理を行うギルドの名前です。ダンジョンはこの世界に七つあるとされており、各ダンジョンにはそれぞれ聖遺物があるとされています」
そう答えたのは銀色の髪をした女性だった。
名をリーゼ。
年は一八くらいで、服装はどこかメイド服を連想するような代物だが、装飾の多くがそれを隠すように作られており、どことなくツナギを連想させる作りになっている。
因みにカチューシャは頭部につけているため、そういった趣味の人のように見えるが、本人はまるで気にしていないらしい。
「聖遺物は我が国に代々伝わる聖剣があって、かつてそれを補完していた場所、っていうことになっているわ」
簡単な補足を加えた女性はシェルア。
黒い髪と瞳が、身に着けている白と青を基調とした服装とよく合っていた。
エルフィン王国の第六王女だが、複雑な生い立ちや立場の都合上、その正体を知っている人は殆どいない。
「出た聖遺物。ってことは聖遺物ってのは複数あるのか。確か聖人は七人だっけ?あ、それが人数が少ない理由?」
「その通りです。発掘されている聖遺物は全部で三つ。残りの四つは未だに見つかっておらず、ダンジョンの奥深くに眠っているとされています。ダンジョンは主に聖遺物を略奪者から守る意味合いで存在し、撃退をするために様々な仕掛けが施されています」
つまり現時点で聖人は三人しかいないことになる。
それなら確かに周辺の国が警戒するのも納得がいく。
迎撃をしようにもそんなチートスペック、普通に考えてただの人ではまともに相手することすら不可能だろう。
「でもダンジョンにギルドがあるってことは、この国の管轄ってこと?」
「いえ。そうではなく、むしろその逆とも言えます」
「逆?」
そう尋ねると、リーゼは一つ咳ばらいをして話を進める。
「そもそも、聖遺物はとある鍛冶師の手によって作られました。以前話した神話、その時代に生きていた人物です」
「とんでもないな…………天才、ってやつか」
そもそも権能を付与できる武器なんて作ろうとも思わない。
それを思いつき、実行できた。
まさに天才、と称するに値する人種だろう。
「はい。この天才鍛冶師は四賽を倒すための武具を生み出し、見事撃退に成功します。しかし、生み出された聖遺物はあまりに強力で、それを求めて戦争が起こりかねない代物でした。そこでその鍛冶師は聖遺物を管理できる場所、ダンジョンを作ったとされています」
「武器作って、挙句の果てに建物まで作れたのか……」
以前見せてもらった魔器ですら構造がまるで分からなかったことを思い出すと、同じ人間なのかと疑いたくなってくる。
「それだけではなく、人工的に魔獣を生み出す技術の開発、更に多種多様な魔術的防衛装置を開発、設置したとされています。以前話した権能と魔術の関係を踏まえると、これがどれくらいの偉業かは理解できるかと」
「…………すっげーな」
もはや非の打ちどころのない天才である。
そこまで来ると憧れより感心の方が勝ってしまう。
なんていうか、めちゃくちゃ美形の人を見て憧れる感覚に似てる。
どっちかというと尊敬の念が強い。
「ダンジョンにはそういった仕掛けが多数残されていますが、現時点での技術では再現は不可能とされています。そのため、ダンジョンにある仕掛け一つが大変価値のある代物なのです。当然ですが、それほどの技術であれば、独占し解析、運用したいと考える者は多く存在します」
「それを守る、というよりはダンジョンそのものを保護する役割をしているのがギルドってことか」
サトーの言葉に、リーゼは頷き話を進める。
「そうなります。そのためギルドは各国からの干渉を受けない代わりに、冒険者に対し独自の決まり事を定めています。また、ギルドで認められた者でしか冒険者としてダンジョンを攻略することが許されていません。そのため、まず冒険者になるためにはギルドに行き、認可を得る必要があります」
「『明星の狼』は初心者向けのダンジョンで有名で、私たちみたいな駆け出しの冒険者が数多くいるんだって」
シェルアが嬉しそうにしながらはにかんだ。
どうやら前々から存在を知っていたらしい。
遊園地に遊びに行く途中の子供のような無邪気な笑みを見て。
サトーは内心、両手でガッツポーズをとるのだった。




