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「これ、死んだな」
儚い命だった、と他人事のように考えていると。
部屋の奥、薄暗くなっている辺りの扉が、ほんのわずかに開くのが見えた。
少しして、扉がゆっくりと開かれていく。
現れたのは黒を基調にしたドレス姿の女性だった。
漆黒とも言える綺麗な髪がふわりと揺れ、宝石のような瞳がこちらを覗いているのが見える。
美人だ。
とんでもない美人。
遠くから見ても分かるほどの美人。
記憶がないので比較対象がないが、それでも間違いなくテレビに出てくる芸能人に全く劣らないほどの美人だ。
どこか物憂げな表情は却ってその美しさを際立たせており、シンプルな服装はその美しさを十分に伝えてくる。
首元でキラリと何かが光ったが、ここからではよく見えなかった。
恐らくネックレスの類だろうか。
ただの装飾品ですら彼女が身に着ければ似合うだろうな、と感じずにはいられなかった。
「ねぇ、リーゼ。大丈夫、なの…………?」
「お嬢様っ!!なぜこちらに!ここには立ち入らぬよう伝えたはずでは?」
「そ、そうなんだけど、でも、なかなか出てこなくて、その…………」
お嬢様、ということはこの館の主的なあれなのかもしれない。
そういった知識がまるでないためにか、なんとなくの想像でしか憶測することができなかった。
あまりにも知識が乏しいのは些か心にくるものがあるが、だって記憶がないしと内心呟くことで誤魔化す。
(しっかし…………)
二人のやり取りの光景を見ている分には、さながら漫画や映画の世界にいるようだった。
広大なお屋敷に、メイドにその主。
建物の内装が西洋に近しい造形なのもまたそういった意味では非常にそそられるものがある。
それこそ一度は妄想したような光景がそこにあった。
と、そこまで考え、ふとある疑念が頭に浮かんだ。
あまりにも滑稽な話だが、可能性としては決してない、とは言えない内容。
それを確認するために、意を決して声をかける。
「あ、あの…………!」
どうやら二人の話し合いは部屋から出ていくか否かに焦点が定められているらしく、話は平行線を辿っているように聞こえた。
意外とお互いに主張を譲らない二人は、俺の声を聞いて言い合いを止めた。
「?なんでしょうか?」
「一つ、聞きたいことがあって。ここって、どこ、なんですか?」
すると、隣にいたドレス姿の女性がこう言った。
「ここはエルフィン王国の東に位置する森。位置的には王国側にある小さな村の近くです」
その言葉で疑念は確信に変わった。
どうやら自分は、異世界に来てしまったらしい。