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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第1章 始まりの森

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 シェルアは一人、自室にこもっていた。


 既に例の事件から三日が経過していた。

 依然として現状は変化していないものの、無断に外に出たことは言い訳の余地すらない事実であった。


 なにより彼女自身、何が起こったのか未だに整理できていなかった。


「はぁ…………」


 大好きだった読書も、なんとなく手が止まってしまう。


 理由は分かっていた。

 脳裏に焼き付いている彼の姿が、恐ろしいほど集中力を割いているのだ。


「いったい、どうなってるんでしょうか…………」


 リーゼにかなりきつく言われ、あれ以降全く会えていない。

 ひとまずは命に別状はないとのことだが、権能の効果とデメリットを考えれば、何事もないはずがない。


 意識を取り戻しているのか。

 何か後遺症などはないのか。

 食事はきちんと取れているのか。


 聞きたいことは山ほどある。

 なにより、言いたいこともある。


「やはり、ここは一度行ってみるしか────」」


 そう決意した瞬間、不意に部屋のドアが開いた。


「失礼します。シェルアさんは…………」


 ドアの隙間からひょっこりと顔が見える。

 一瞬誰かと思ったが、やけに短く髪を切られた彼だった。

 彼は一瞬戸惑った表情を浮かべると。


「えっと、なんか、タイミング悪かったですか?」


 なんのことだろう?と思ったが、まさに今立ち上がろうとしていることに気付いた。

 慌てて姿勢を変え、頬を掻きなが再度座り直す。


 深く言及する気がないのか、彼は特に気にすることなく部屋へと入った。


「あー、その、元気、ですか?」


 なんだか他人行儀な様子を見て内心もしかしてと思う。


「もしかして、あの夜のこと、気にしてます?」

「……………………まぁ、しますよね」


 そういって照れ臭そうに頭を触る。

 どうやら一連の言動に後ろめたさを感じているらしい。


 彼らしい、と思いつつも、こほんと咳ばらいをして姿勢を正す。


「あなたは何も間違っていなかったと思います。少々、思い込みが激しかった。それだけです」


 ふっと笑みを作ると、嘘偽りのない想いを伝える。


「幸せだ。あなたにそう言ってもらえてうれしかったです。なにより、あれだけ必死に私を助けてくださったのですから、きっとあなたの想いに嘘はないんだと感じました。勿論、リーゼの想いもです」


 嬉しい、と言うのは些か不謹慎なのかもしれない。

 彼はボロボロで、リーゼの立場も危うい。


 私のせいなのだとしても、それでも関係なく私を助けてくれたのは嬉しかったし。

 どうしようもないくらいに、私はここにいていいのだと教えてくれた。


 それだけで、私のこれまでの人生は報われたし。

 それだけはきっと、誇っていいのだと信じることができた。


「ですので、これからはもう少しだけ、自分のことを好きになろうと思います。勿論、失ったものは還ってきませんが、今持っているものは大切にできますので」


 あまりに真っすぐで、純粋な告白に、彼も流石に口を開けていた。

 その様子がなんだかおかしいなと思うと同時に、ほんのすこしだけ悪戯心が働いた。


「ですが、あれだけの啖呵を切っておいて、随分距離が遠いと思うのですが」

「えっ」

「おかしいですね。守らないとリーゼに伝えると、そう約束したはずですが…………」

「あー!分かった!分かりました!これからはできるだけ、親しみやすく話すから!だからリーゼに伝えるのは勘弁して!」

「ふーん…………ま、今回は多めにしてあげます」


 本当は伝える気なんて全くないのだけど、反応が面白いのでこのままにしておく。

 やりずらそうに額に触れる彼は、要件を伝えるのか肩の力を抜く素振りを見せた。


「一つだけ、お願いがあって来ました」

「ですからその話し方──────」


「俺と一緒に、旅に出てくれませんか?」


 あまりに唐突な問いに、頭の中が真っ白になった。


 旅。

 それは長年夢見ていた、やりたい事。

 頭の中で何度も想像した、憧れの光景。


 彼は真剣な表情で、まっすぐと私を見ていた。


「やっぱり俺、この世界を見て回りたいんです。どんな景色があるのか、どんな人がいるのか、それを実際に見て、確かめたい。あなたと話して、そう思ったんです」


 その想いは、その想いだけは何度も反芻してきたことだった。


 だけど、それができたらどれだけいいか。

 できるものならとっくにやっていると、そう口にしそうになった。


 しかし。


「話、聞いたんです。ここにいてもあなたは自由になれない。それなら、俺と一緒に来てくれませんか?俺と、この世界を見てまわってくれませんか?」


 そういうと、彼は頭を下げると、右手を差し出した。


「どうか、お願いします。俺は弱いから、魔獣の一体も倒せません。だけど、それでも必ずあなたのことを守ります。どんな相手でも、必ず守り通します。だから」


 彼はそこで言葉を区切り、頭を下げたまま動きを止めた。

 伸ばされた手は、少しだけボロボロで、それだけであの夜のことを思い出す。


 命がけで守り通された、あの日のことを。


「…………ずるいです」


 思わず、そう言っていた。

 彼はピクリとせず、静かにそれを聞いていた。


「そんな風に言われたら、そんな風に誘われたら、断れないじゃないですか。必死になって守っていた約束も、押し込めていた想いも全部、我慢できないじゃないですか」


 どこか怒るような言い方とは裏腹に、思わず笑みを浮かべていた。


 どうしてか分からないけど、不思議とわくわくしている自分がいた。

 硬く、重く閉ざされていた壁が、少しずつ壊されていく。


 その胸の内を表す言葉が見つからないまま、私はこう続けた。


「一つだけ約束してください。たとえどんなことが起きようとも、あなたは決していなくならないでください。私を不幸にしないでください」


 伸ばされた手を取る。

 少しだけゴツゴツした手は、じんわりと温かった。


「その代わり、どんなことが起きようとも、私はあなたの傍にいます。必ず、幸せにします」


 誓いの言葉。

 聞き終え、顔をあげた彼は、どうしてか顔を真っ赤にしていた。

 心当たりがなにもないので、わけが分からずぽかんとしてしまう。


 彼は、耳まで真っ赤にしながら、そっぽを向いて一言。


「…………なんか、告白っぽいっすね」


 その一言で、シェルアの白い頬が一気に赤く染まり、

 直後、鬼の形相をしたメイドが現れたのは、また別の話。

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